【物語りVol.103】タイ・リーバ DFコーチ

 一卵性の双子として生まれた。兄弟のタセサはフランスのクレルモンやスーパーラグビーの複数クラブでプレーし、2011年のラグビーW杯にサモア代表として出場した。
 「選手としてのキャリアは、彼のほうが優れていますね。アスリートとしての私は、ちょっと失敗してしまいました」とタイは頬を緩める。濁りも陰りもない、爽やかな笑みだ。
「僕は彼の一番のサポーターです。彼の成功は自分にとっても嬉しいもので、ホントに大親友と言っていい存在です」
 5歳から始めたタイのラグビーは、24歳で新たな進路を取る。選手から指導者への転換だ。兄弟のサポートをしていくうちに、指導への興味が膨らんでいった。
「セントケンティガンカレッジという私立の一貫教育を提供する学校で、ハイスクールの教師をしながらスポーツコーディネーターの役割を担い、ダイレクター・オブ・ラグビーやヘッドコーチも任されました。フィジーの高校に通っていたセタ・タマニバルを採用したり、リッチー・モウンガを指導したこともあります」
 その後はスーパーラグビーのブルーズやチーフス、NPCと訳される州代表選手権のカウンティーズ・マヌカウで、年代別のチームの指導を担った。NPCのチームで、アシスタントコーチやヘッドコーチも歴任した。
「ひとつ誇りに思っているのは、自分が関わった選手たちの多くがプロになっていったことです。NPCやスーパーラグビーでプレーする選手、オールブラックスにセレクトされる選手もいました。自分の環境から選手たちがそうやって旅立っていくのを見て、教師ではなくプロのコーチとしてやっていけるかなと思いましたね」

 日本とのつながりは、21年から始まる。コベルコ神戸スティーラーズのコーチに就任したのだ。
「日本行きの決断は簡単でなく、すぐには興味がわかなかったのも事実です。ニュージーランドでそのまま仕事を続けて、若いヘッドコーチとして自分がどうなるのか、楽しみにしていた部分がありました。ただ、こういうチャンスはいつまた来るのか分かりません。家族にとっても海外で生活するのはいい機会になるかと思い、日本へ行く決断をしました」
 神戸では1年目にアシスタントコーチを、2年目はディフェンスコーチを担当した。「すごく気に入っていた」という日本での生活を見渡すと、自身を東芝ブレイブルーパス東京へ導く縁があった。
「トディ(トッド・ブラックアダーHC)とは直接会ったことがなかったのですが、もちろん知っていました。実際によく知っている存在で言うと、ダン・ボーデンとはオークランドラグビーで一緒に仕事をしていて、彼は採用担当とエイジグループのコーチをしていました。ブレア・ミルズは自分が選手になろうとした当時の、アカデミーのトレーナーです。サム・ワードは一緒に働いたことはないですが、以前からの知り合いです」
 スタッフだけではない。18年から22年まで在籍したジョニー・ファアウリは、その成長過程に長く関わった。ジェイコブ・ピアスも以前から知っていた。スタッフにも選手にも知己がいて、東芝ブレイブルーパス東京がニュージーランドとの深い関係にあることを理解すると、チームの一員になることに迷いはなかった。
「このチームには明確なDNAがあります。東芝ブレイブルーパス東京という大きな絵のなかに、私のディフェンスについての哲学をどのように組み込むか。それが仕事になります」

 2023-24シーズンを迎えるにあたって、トッド・ブラックアダーHCはディフェンスの強化をポイントにあげた。果たして、シーズン序盤からはっきりとした改善がみられていった。
 「自分のコーチングスタイルに慣れてもらうまでに、少し時間はかかったかもしれません」とタイは言い、チームのカルチャーを評価する。
「このチームの選手たちは、一人ひとりがハードワークし、お互いのためにもハードワークをします。チームメイト同士の関係性が強い。そういった要素を持っているのは、ディフェンス面ではすごくやりやすいのです」
 20年目に突入した指導歴で、築き上げてきた哲学がある。「それを話すと何時間もかかってしまいますが」と声をあげて笑い、すぐに表情を引き締める。心のスイッチの切り替えの早さは、タイの優れた長所かもしれない。
「自分のプランがヘッドコーチの認識に沿っているのかが大切です。まずはヘッドコーチと認識を揃え、さらに選手たちとも揃えていく。そのうえで、ハードワークをして、しっかりとコネクションしていくことが大事でしょう」
 生きていくうえでの矜持もある。タイの双眸そうぼうに、ラグビーへの敬意の色が浮かんだ。
「ラグビー業界で仕事ができるのは、ホントに幸運だと思っていますし、こういったチャンスに恵まれていることを、当たり前と思ったことは決してありません。いま現在の仕事があるのは、それ以前に携わったチームのおかげです。自分の人生の成功は、チームなしに存在しません。先のことは考えずに目の前の仕事にフォーカスを当てることで、結果的に新しい展望が開けてくると感じます」
 ラグビーを通して、たくさんのものを得た。達成感や充実感に身体が満たされ、ときには悔しさや悲しさに身体が震える。それらすべての感情をともに仕事をするスタッフ、選手と共有できることが、タイの人生をかけがえのないものにしている。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【試合情報】
4/14(日)はホストゲームとして、秩父宮ラグビー場にてコベルコ神戸スティーラーズと対決します!
この試合に勝利することで、プレーオフトーナメント出場が確定しますので、ぜひ会場で皆様のご声援をよろしくお願いいたします!

4/14(日) vs コベルコ神戸スティーラーズ チケット情報
4/14(日) vs コベルコ神戸スティーラーズ ホストゲーム情報

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