【物語りVol.150】ハフ タイヘイ 通訳・生活サポート

生まれも育ちもアメリカである。
「僕は日系4世で、日本には小さい頃から何度も来ていました。そのおかげで日本語や日本の文化に興味を持つようになり、いつか日本に住みたいと思うようになっていったのです」
ワシントン大学で日本語と日本文学を学び、2019年の夏に移住を前提に来日した。石川県羽昨市の小中学校で、ALTと呼ばれる外国語指導助手に就く。日本人教師による英語の授業をサポートしたり、中学校の陸上競技部の活動に参加したりした。その間に、日本語能力試験のN2を取得する。2番目に高いレベルの試験を突破した。
21年秋から東京へ居を移し、旅行会社に転職した。マーケティングや販売促進をしたり、英語と日本語でブログを製作したりした。
ハフ タイヘイのここまでの人生は、ラグビーとほぼ交わっていない。19年のラグビーワールドカップをきっかけに興味を持つようになり、東京へ引っ越してから何度かスタジアムで試合を観たことがある。それにしても、休日の過ごしかたのひとつに過ぎなかった。
ところが、思いがけないつながりが、ハフをラグビーに、東芝ブレイブルーパス東京に引き寄せる。
「トッド・ブラックアダーHCと共通の知り合いがいて、その人にトッドさんを紹介してもらって。東芝ブレイブルーパス東京の関係者と会うことになり、このチームで働くことになりました」
ニュージーランド生まれのトッドHCと、アメリカ育ちのハフの人生が、どちらにとっても異国の日本で交錯する。これだから人生は分からない。面白い。

少年時代から野球に親しみ、スポーツ全般に興味があった。「スポーツ関係の通訳になりたい、という希望はありました」と話すから、目標だった仕事を得ることができたわけだが、東芝ブレイブルーパス東京は国内屈指の名門にして、前シーズンのチャンピオンチームである。しかも、ハフはラグビーを学んでいく立場だ。
「なので、いきなりグラウンドに立つのではなく、オフフィールドで通訳をやって、ラグビーを学びながらちょっとずつグラウンドに入る、ということでスタートしています」
ラグビーには専門用語がある。東芝ブレイブルーパス東京なりの共通語もある。あるひとつのシチュエーションを表現するとしても、コーチによって使う単語が違ったりもする。
「単語の意味を理解したうえで通訳する、ということが少しずつできるようになっています。戦略的なところは、まだちょっと難しいですけれど」
通訳とともに「生活サポート」の肩書を与えられている。外国人選手から要望があれば、時間に関係なく応える。
「生活全般についてはそれぞれのエージェントに任せて、僕の生活サポートのメインは、病院へ一緒に行くことでしょうか。あとは翻訳です。きちんとした書類からグループLINEの翻訳までやります」
ケガをした外国人選手のリハビリに、メディカルスタッフとともに付き添うこともある。通訳を介したコミュニケーションが選手の競技再開のタイミングに直結するだけに、言葉の選びかた、伝えかたは重要だ。すぐに翻訳する瞬発力も問われる。器具を使ったフィジカルトレーニングなどでも、同様のスキルが問われる。
「この場面ではこの言葉を使うべきだとか、この人が喋っている場合はこういう表現がいいとか、学びながらやっています。これはすごく難しいな、という場面では先輩に確認します。みんなすごく優しく教えてくれます」
通訳の先輩だけではない。スタッフ全員が、歓迎してくれた。
「めちゃくちゃいい人たちです。世界的に有名なコーチや選手も、ラグビーを知らない僕を受け入れてくれて、一緒にラグビーを学ぼうと。色々な人に教えられて、助けられて。ホントにファミリーのようです」

生活サポートのハフは、リッチー・モウンガやシャノン・フリゼルのようなワールドクラスの選手たちと、オフフィールドで時間を共有する。「普通ならできないことで、すごい体験をしていると思います」と、眼を大きく開く。けれど、驚きや興奮のバロメーターはそこまで高くない。
「普段の彼らは、すごく優しいんです。ラグビー界のスーパースターということを、忘れてしまうぐらいで。一緒にいることが特別なこととは、感じなくなっていますね」
自分を温かく迎えてくれた人たちに、何か少しでも恩返しができたら。そのためにも、東芝ブレイブルーパス東京で長く通訳を務めたい、というが現在の願いだ。
「通訳としての自分は、まだまだプロとは言えません。成長できるところはいっぱいあると思いますし、それにプラスして生活サポートの仕事も気に入っています。実際にやってみて、すごく価値のある大切な仕事だと思います。選手をサポートして、不安が取り除かれて、その選手が週末の試合で活躍をしてくれたら、僕もすごく嬉しいです」
自分なりの覚悟と、使命感と、忠誠心を胸に抱いて。ハフは自らの言葉で、態度で、チームの精神的なつながりを深めていくのだ。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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