【物語りVol.155】小峯 大和 アシスタントS&Cコーチ

小峯大和とラグビーの出会いは、父の助言をきっかけとする。それまで陸上競技に打ち込んでいたが、「協調性を磨いてほしい」との理由で団体競技を勧められた。中学2年でラグビーのクラブチームに入り、高校は千葉県の強豪・流通経済大学柏を選ぶ。
「自分も含めてラグビー初心者が何人もいましたが、松井(英幸)先生に指導してもらい、自分たちの学年は花園でベスト16まで行くことができました。いま監督をやっている相亮太さんには、ラグビーの楽しさを教えてもらいました。僕にとっては恩師と言っていい存在で、相さんのような人物になれたらと思いました。」
高校卒業後は流通経済大学へ進み、ラグビーを続けた。関東大学リーグに属するチームで、リーグ戦に出場することは叶わなかった。
「4年間一生懸命頑張ったつもりでしたけど、S&Cになった自分の立場で振り返ると全然足りなかったですね。同期には毎日色々な試合を観る選手や、海外の選手の経歴を事細かに覚えている選手がたくさんいて、自分はそこまでのレベルでラグビーが好きではないな、ということも感じていました。」
自分を客観視していたからこそ、彼我の違いを分析できていたのだろう。大学卒業後の進路を決めるにあたっても、小峯は自らを冷静に見つめるのだ。
「それまでラグビーをやってきたけれど、自分の中に核となるものが存在していない。この仕事をしたい、というものが定まっていなかった。ラグビーをやってきた経験を自分の人生に役立てたい。世のため、人のために貢献したいと考えたときに、もっともっと勉強したいなと思ったのです。」

卒業後は就職をせず、大学院で学び続けた。
「高校でも大学でも勉強していなかったので、大学院では周りについていくのに必死でした。僕自身の学びも覚悟も、全然足りていなかったことに気がつきました。」
大学院で学びながら、都内の高校で非常勤講師を務め、保健体育の授業を担当した。大学教授の父と中学教諭の母を持つ小峯には、学究肌の血が流れているのかもしれない。本人は「そんな、とんでもないですっ」と、顔の前で何度も手を振る。
「父や母、高校でお世話になった相先生を見ていて、僕なりに考える教師像がありました。しかし、自分はそこに重ならなかったんです。」
そんなときに、S&Cという仕事に出会った。
「ジャパンのS&Cを務めている太田千尋さんに、大学院での研究に関して相談をさせていただいたことがあるんです。そのご縁もあり、明治大学のS&C体制を強化しようとしていたタイミングで挑戦してみないかと声をかけていただきまして。」
高校でも大学でも、チームにはS&Cがいた。けれど、その仕事内容を明確に理解できていなかった。
「部員が多いので仕事は大変でしたけれど、やってみたら面白い。当時は日本代表S&Cの太田さん、ハイパフォーマンスディレクターの里大輔さん、ヘッドコーチだった伊藤宏明さんから、大きな影響を受けました。里さんも伊藤さんも、本当に細かいところまで気遣いや心配りができる方で。」
ある日の練習で、里さんが言うのだ。
「あの選手、いつもと雰囲気が違うけど、同じアップでいいの?」
ウォーミングアップを終えて練習に入ると、確かに動きが良くない。データを調べてみると、ハムストリングスのストレスの数値が微妙に高い。ウエイトトレーニングの重量も落ちていた。
「そうやって一人ひとりの選手に、目を向けているんです。僕はと言えば、矢印が自分に向いていて。どうやってトレーニングをさせるか、どれだけ重いものを持たせるか、ということばかりを考えていた。選手をどう成長させるか、その成長をラグビーにつなげていくか、という観点が欠けていたのです。」

初めてのS&Cである。初めての現場である。学生たちにやらせなければ、そのために自分がやらなければ、という思考が強くなるのもしかたがなかっただろう。
明治大学では23年シーズンまでS&Cを務め、24年8月に東芝ブレイブルーパス東京のアシスタントS&Cコーチ就任が発表された。「これはもう、ホントにタイミングとご縁に恵まれたからです。」と、小峯は頭を下げた。この場所には居ない恩師に、感謝を伝えている。
「23-24シーズンのプレーオフトーナメントの決勝もテレビで観戦していました。その後、太田さんからのご紹介で、縁あってお世話になることができました。僕自身の能力は全然足りないので、ホントにご縁のおかげです」
チャンピオンチームの一員となった。「緊張感はもちろんあります。」と、背筋を伸ばす。「試行錯誤の毎日」を過ごしている。
「優勝したチーム、勝っているメンバーに、僕が手伝えることは何だろうと考えるのは、ものすごくレベルが高い。大学生とは違って自分から動く選手ばかりですから、選手たちが動く前に自分から何かに気づいて行動しないといけない。試行錯誤ばかりですけど、非常にやり甲斐があります」
毎日の仕事に全力を注いでいるから、先のことは考えていない。
「自分が信じているものをしっかり行動に移していきたい、という思いがあります。これからもあまり先のことは考えずに、目の前の事象や人に対して、自分がどう行動できるのかに対して一生懸命でいたいですね。とにかくいまはS&Cとしての能力を伸ばしたい、そしてこのチームの力になりたい、ということしか考えていません。」
試合に絡んでいく選手が、高いパフォーマンスを保てるように。K9の選手が、レベルアップしていくために。
次の試合のために。チームの未来のために。
S&Cとして成長したい、と願う。
「本当に口で言い表せないほどいいチームですからね。スタッフ同士のコミュニケーションが多くて仲がいい。選手、スタッフが一丸となっている。限りなくセイムページを見ている組織だと思います」
小峯の生活の、身体の、心の、ど真ん中に、東芝ブレイブルーパス東京がある。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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