【物語りVol.157】 ユアン・マッキントッシュ BKコーチ

 

生まれ故郷のスコットランドは、ラグビーと同じくらいサッカーが盛んだ。サッカーのスコティッシュ・プレミアリーグでは、日本人選手もプレーしている。ゴルフやクリケットも人気がある。

しかし、ユアン・マッキントッシュは楕円球を選んだ。

「自分はラッキーでした。お爺さんも、お父さんも、兄も、ラグビーをしていましたから。ラグビーをすることが自然で、歩き出すのと同じくらいのタイミングで、僕はラグビーを始めたのです」

イギリスを構成する4地域のひとつであるスコットランドには、プロのラグビーチームがふたつしかない。ユアンはスコットランドU―18にセレクトされていたが、スタートで常時出場するような選手ではなかった。その時点でマインドセットを変える。

最初にニュージーランドへ行き、次にオーストラリアへ向かった。その後はフランスへ移り、2年間セミプロの立場でプレーする。しかし、長期の離脱を強いられるケガを負ってしまう。リハビリに2年間を費やした末に、コーチとしてのセカンドキャリアをスタートさせるのだ。

「僕はスコットランドのエディンバラ大学で、体育学を専攻していました。選手としての経験だけでなく大学での学びがあったので、コーチになることは難しくなかったですね。選手だった当時から、自分が接するコーチがどういう指導をしているのか、いつも注意深く見ていましたので。フランスのサンテティエンヌでフルタイムのコーチとして2年、経験を積むことができました」




ここからもう一度、南半球を目ざす。ニュージーランドのベイ・オブ・プレンティのタウランガ・スポーツクラブで、15人制と7人制の様々な仕事を担っていくのである。セブンズではU19全国選手権の出場に貢献した。

「ニュージーランドは世界でもベストと言っていいラグビー強国です。自分にとってはすごくいいチャレンジになるだろう、と考えました」

ベイ・オブ・プレンティで2年を過ごすと、ユアンのキャリアはドラスティックに変化する。中国の女子セブンズのスタッフ入りするのだ。

「ベイ・オブ・プレンティの男子セブンズで一緒だったショーン・ホーランが、20年の東京オリンピックの出場権獲得を目ざして中国で仕事をすることになったのです。私も中国へ行くことになり、ヘッドコーチを務めることになりました」

アジア予選を見事に突破し、目標だったベスト8入りを果たした。

中国での仕事を終えると、オールブラックスの男子セブンズのACとなる。24年のパリ五輪でもスタッフとして戦った。五輪後も契約延長は可能だったが、数年前から抱いていた思いが徐々に膨らんでいた。

〈どこかのタイミングで、15人制に戻りたい〉


 

リーグワンの24-25シーズンへ向けて、東芝ブレイブルーパス東京のBKコーチとして契約を結んだ。「キックを中心としたスキルを、チームに落とし込んでほしい」(薫田真広GM)との使命を帯びた。

「友だちの友だちというような関係の人はいましたが、過去に一緒に仕事をしたことのある人はいませんでした。それはあまり気にならず、自分が知らない新しい文化に触れるチャンスだと思いました」

チーム内では「ユアン」や「トッシュ」と呼ばれる。

「色々なバックグラウンドを持った人間が集まるのが、ラグビーのユニークなところですね。自分とは違う経験を持っている人、違うマネジメントを知る人から、学びを得ることができます。ずっとスコットランドにいると、どうしてもマインドセットが狭くなってしまうので、スタッフ同士でお互いの経験をシェアすることは、僕にとってとても大切なことです」

日々の取り組みのなかで、ユアンは選手と1対1で向き合う。1週間の時間の使いかたを伝え、試合をレビューして、スキル向上のトレーニングに取り組む。

「このチームの選手は、誰もがハングリーですね。23-24シーズンの優勝は過去のものとして、ハングリーにもっと良くしていこう、という思いで練習に取り組んでいる。そういった選手たちの姿勢が、私のモチベーションにもなっています」

 



ユアンは1985年生まれの39歳だ。指導者としてはまだ若いが、様々な種類の経験を積んできた。目の前の仕事に、「一意専心」で取り組んできた。

「正直に明かして、これから自分がどうなりたいのか、といったことを考えないわけではありません。ただ、いま現在の仕事にフォーカスしないと、次の仕事につながっていかないと思うんです。目の前の仕事をやり切ることが大事で、それができればまた新しい展望が開けていくのでは、と」

自らのタスクを丁寧に、丹念に、しっかりと果たし、チームに熱意を吹き込む。日々の取り組みがチームとの精神的な結び目を固くし、ユアン自身の存在を必要不可欠なものとしていく。


(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)





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プレーオフ準決勝、神戸S戦は、31-3で勝利し、6/1(日)に秩父宮にて行われる決勝戦に駒を進めることができました。

いよいよシーズン最終戦となる決勝戦となります。
皆さまの熱い応援で会場を赤く染めていただき、連覇に向けてともに戦いましょう!

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