【物語りVol.159】NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント STORY of FINAL(前編)

日本で1チームだけに許される歓喜が、東芝ブレイブルーパス東京を包み込んでいる。
5万人を超える大観衆が詰めかけた国立競技場で、NO.8リーチ マイケル主将がトロフィーを高々と掲げた。その瞬間に、選手たちが雄叫びをあげる。SOリッチー・モウンガらのメンバーが、グラウンド脇で表彰式を見つめるノンメンバーとスタッフを手招きする。チームに関わる全員が大きなかたまりとなり、全員が最高の笑顔でカメラのファインダーに収まった。
6月1日、NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント決勝が行われた。東芝ブレイブルーパス東京はレギュラーシーズン3位のS東京ベイを、18対13で退けた。最高のフィナーレを飾ったチームを、試合2日前の公開練習から振り返っていく。

■5月30日(金)決勝前公開練習
この日は朝から雨だった。冷たい空気が肌を刺す。練習の合間に選手たちが動きを止めると、身体からうっすらと湯気が沸き上がった。
グラウンド脇に仮設されたテントに、練習を終えた選手たちがやってくる。取材に対応した4人は、この日午後に発表されるメンバーに名を連ねることとなる。
LOワーナー・ディアンズは「自分たちらしく」と切り出した。
「決勝だから、S東京ベイはディフェンスがすごくいいから特別にこうしてとかじゃなく、自分たちが磨いてきたアタックをやれば勝てると思います」
CTB眞野泰地も、「自分たちらしくやることですね」と言う。
「今週のテーマが『Be Us』で、自分たちらしく、これまでやってきたことをやりきるだけだ、と。特別なことはしないというのが、僕らのフォーカスです」
テーマはスタッフから毎週の試合へ向けて、アタックとディフェンスでそれぞれに提示される。FL佐々木剛によれば、「Be Usはアタックのテーマで出てきたもの」とのことだ。ディフェンスでは「容赦なくいく」というテーマで「Ruthless(ルースレス)」が提示されたが、「Be Usはディフェンスにも通じるものがある。ファイナルだから特別なことをやるのではなく、シーズンを通して積み上げてきたものを出し切る。とにかく自分たちらしくやる、ということです」と、佐々木はディアンズ、眞野と同じ思いを強調した。
今シーズンの東芝ブレイブルーパス東京は、レギュラーシーズンでリーグ最多の得点を記録した。それに対してS東京ベイは、失点がもっとも少ない。今回のファイナルは「最強の矛と最強の盾の激突」と言われるが、FB松永拓朗は何をすべきかを明確に整理していた。ここでもやはり、「自分たちらしさ」がキーワードとなる。
「相手はもちろんフィジカリティにきますし、でかいFWがいて強いのは分かっている。でも、自分たちのアタックができれば、絶対に突破できると思っている」
シーズンの締めくくりとなるファイナルを前にして、チームは落ち着いた雰囲気に包まれていた。在籍14年目のHO森太志が、今週の準備を振り返る。
「特別なことをしようということはなくて、この時間をみんなで楽しんで、いつもどおり東芝らしくいようと、コーチ陣も(主将のリーチ)マイケルも話していましたね」
言うまでもなく、ラグビーは相対的なスポーツだ。だからこそ、「大舞台で自分たちらしさを出し切る」との決意のそばに、「出せない時間もある」との想定がある。うまくいかない時間帯にも思考を巡らせることができるのは、2シーズン連続の決勝進出がもたらす「心のゆとり」なのかもしれない。
全体練習後の個人練習が終わり、選手たちがクラブハウスに引き上げていく。ときおり勢いを増す雨が、グラウンドを打つ音だけが響く。
決勝まで、あと2日──。

■5月31日(土)プレマッチカンファレンス
ファイナルを翌日に控えた5月31日、試合会場となる国立競技場でプレマッチカンファレスが行なわれた。東芝ブレイブルーパス東京からは、トッド・ブラックアダーHCとリーチ主将が出席した。
トディことブラックアダーHCは、「みなさん、コンニチハ」と日本語で挨拶をする。レギュラーシーズン試合後の記者会見や、東芝府中事業所での定例会見と同じように、紳士的で情熱的なコメントを発していく。
「まずはS東京ベイを、最大限リスペクトしています。長いシーズンを戦ってきて、夢見ていた国立の舞台に立てることは光栄です。シーズンを通して見せてきた我々のラグビーをするために、1週間いい準備ができています。東芝という会社、企業を代表する意識を持ちながら、僕らの選手はいいラグビー、見ていて楽しいラグビーをしてくれるのでは、と楽しみにしています」
リーチ主将も冒頭に、「みなさん、こんにちは」とあいさつをした。落ち着いた口調で「試合が楽しみです」と語りつつ、沸き立つような気持ちが一つひとつの言葉ににじむ。
「シーズンを通して色々な経験をしてきて、勝った試合、負けた試合、引分けた試合があって、この試合にすべてをかけてやりきりたい。フィジカルバトルになると思うので、5万人のお客さんの前でしっかりいいプレーができるように頑張りたいと思います」
試合のポイントは? 勝敗を分けるものは? 様々な角度から質問を受けるものの、リーチ主将の答えは一貫していた。
「自分たちにフォーカスしている。とにかく東芝らしくやりたい。チャレンジ精神でずっとやってきたので、自分たちにフォーカスしてやりきりたい」
18時前に始まったカンファレスは、18時30分過ぎに終了した。
明日のこの時間には、勝者と敗者が決まっている。
ブラックアダーHCとリーチ主将は、どちらの立場でこの会見場へ足を踏み入れるのか──。
(文中敬称略、後編続く)
(ライター:戸塚啓)

【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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