【物語りVol.160】NTTジャパンラグビーリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント STORY of FINAL(後編)

■6月1日(日)決勝
ノーサイドのホーンが鳴り響いてから、すでに1時間以上が経過している。グラウンド上での熱は、選手たちをなおも包み込んでいた。
それも当然だったのだろう。2シーズン連続のプレーオフ決勝で、S東京ベイを退けて連覇を達成したのだ。どの顔も上気していて、歓喜と安堵、達成感と充実感が刻まれている。
FL佐々木剛はディフェンスのテーマだった「Ruthless」を念頭に置いて、「エリアマネジメントやペナルティについては、もうちょっと容赦なくできたと思います」と反省した。そのうえで、18対13の勝利を評価する。
「相手が一番モメンタムを生み出したいところを、しっかり止めることができた。要所を抑えている感覚は持ちながら、集中力を持ってプレーできたかなと思います」

8対6で迎えた後半7分に、リードを拡げるトライを決めたのはWTB森勇登だ。ランで大きくゲインしたSOリッチー・モウンガをサポートし、インゴールへ飛び込んだのだった。昨シーズンのプレーオフ決勝に続いて、勝利につながるトライをゲットしたのである。
「あとは走るだけという形にしてくれたので、そこはリッチーの強みというか、すごいなと思いました。あの形はけっこう多いです。いつもどおりですね」
前年王者として挑んだシーズンだったが、選手たちは「連覇を狙う」と口にしなかった。次の試合の準備に、集中していった。
チームの総意を、森が言葉にする。
「そこは考えずにやっていました。先を見ずに1試合、1試合、ハードワークしようと」

PR木村星南も頷く。
「連覇を目ざすのではなく、もう一度優勝を取りにいく、という言い方をしてきました」
目前の試合に意識を傾けるマインドは、小事を大事にするマインドセットの具現化でもある。NO.8リーチ マイケル主将、PR三上正貴、FB豊島翔平とともにチーム最長の在籍14年を数えるHO森太志の言葉に、チームカルチャーが映し出される。
「去年のメンバーは去年しか揃わないし、今年のチームの選手とスタッフは今年しか揃わないんですよね。だから、連覇というよりは今シーズン全員でここまでやってきたことに意味を持たせたい、という思いがチームのなかにあったのかなと思います」
森はレギュラーシーズンとプレーオフを通してメンバ―入りを果たせず、「K9」と呼ばれるメンバー外のひとりとして過ごした。「チームが勝てば心から嬉しく思いますし、自分がその場所に立っていないことは心から悔しく思います」と、落ち着いた表情で話す。
嬉しさと悔しさのすぐそばには、「誇り」がある。37歳の経験者はシーズンを通して臨戦態勢を整え、チームにコミットしていった。この日もバックアップメンバーとして、試合前のウォーミングアップでグラウンドに立っている。
「僕のポジションで試合に出ている原田選手や橋本選手は、自分がなぜ2番を着けるのか、16番を着けるのかを、練習からしっかり証明し続けてくれた。自分はバックアッパーメンバーにいたんですけれど、そこに入るのも競争があります。彼らが2番、16番の価値を高めてくれているのと同じように、バックアップメンバーにいることに誇りを持ってやるべきことをやろう、と思うことができていました」

決勝戦後の記者会見で、リーチ主将はK9に触れている。この日だけでなく、シーズン中に何度も、何度も。
「今シーズンずっとサポートしてくれたファン、自分たちを支えてくれたノンメンバーの選手、コーチ陣に感謝しています」
トッド・ブラックアダーHCも、チーム全員のハードワークを讃えた。これもまた、記者会見ではお馴染みと言っていい。
「チーム全員を誇りに思います。今日という日に至るまで、チームとしての信念、向き合う姿勢など、1年を通して全員の努力と頑張りは素晴らしいものでした」

ミックスゾーンと呼ばれる取材エリアでは、モウンガの前に記者が集まっていた。プレーオフ準決勝の終了間際に右手を骨折し、今週は練習にほとんど参加できていなかった。それでも、前半8分に先制トライを奪い、後半7分には鮮やかなランで相手ディフェンスを翻弄し、森のトライを生み出している。準決勝に続いて、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。
「しっかり準備してプレーできました。ケガのことはあまり考えないようにしていましたし、実際のプレーにもとくに影響はなかったです」
それでも、達成感はあったのだろう。試合終了直後には、瞳を潤ませた。
「連覇できたことはもちろんですけれど、今週は1度も練習ができなかったので、そこを乗り越えた感動と、メディカルチームを含めてチームのみんながサポートしてくれて試合ができて、優勝ができたということで、感情的になりました。ちょっとグッときました」

達成感とともに、新たな意欲を燃やす選手もいる。
SH小川高廣だ。
昨年1月に左ひざに大ケガを負った彼は、今年2月に戦列に復帰した。9節から準決勝まで11試合連続で途中出場を重ねてきた。トライも2つ奪っている。チームの内外からカムバックを喜ぶ声が聞こえていたが、小川自身は左ひざのケガに伴うふくらはぎに不安を抱えていた。復帰までに肉離れを繰り返したからだった。
「それがやっと、プレーオフに入ってから良くなってきたんです」
大きな拍手を浴びて途中出場した準決勝では、スクラムのボールを拾い上げて自ら持ち出した。華麗かつ強気なステップで大きく前進した。
「ああいうプレーは自分の特徴のひとつなので。これからどんどん出していきたいですね」
この時点で言う「これから」とは、新シーズンに他ならない。
「はい、頑張りますよ」と、小川は笑顔でミックスゾーンをあとにした。

■6月1日(月)リーグワン2024-25アワード
決勝戦翌日の午後1時から、東京都内でリーグワン2024-25アワードが開催された。東芝ブレイブルーパス東京からはブラックアダーHC、リーチ主将、木村、LOワーナー・ディアンズ、モウンガ、FB松永拓朗が出席した。出席した5選手とWTBジョネ・ナイカブラが、ベストフィフティーンに選出された。
リーチ主将はベストタックラー、プレーヤーズ・チョイズ・プライズのゴールデンショルダーも受賞した。モウンガはプレーヤー・オブ・ザ・チョイスのプレーヤー・オブ・ザ・シーズンとMVPに輝いている。ナイカブラは最多トライゲッターとベストラインブレイカーに選ばれ、ブラックアダーHCは優秀ヘッドコーチ賞を受賞した。

ブラックアダーHCは「東芝ブレイブルーパス東京という素晴らしし組織を代表して、この賞を受け取ることができました」と、チーム全体のハードワークを讃えた。さらには「レフェリーや試合運営のみなさんにも感謝します」と、試合を支える人々へのリスペクトも言葉にしている。彼らしい心配りだ。

3シーズン連続3度目のベストフィフティーンとなったディアンズは、「非常に嬉しいです。これからも上を目ざして頑張りたい」と決意を新たにした。初受賞の松永は、「とても嬉しく思う。自分をサポートしてくれた家族、チームメイト、ファンのみなさんに感謝します」と喜びを表わした。リーグワンでは初のベストフィフティーンとなるリーチ主将は、「いい選手が多いなかでの受賞で、とても嬉しい」と笑みを浮かべた。


2シーズン連続のMVP受賞となったモウンガは、東芝ブレイブルーパス東京の一員としての帰属意識を口にした。彼はこれまでにも、同じような発言をしている。つまりは、心に根ざした思いということなのだろう。
「東芝という企業を代表してプレーする気持ちを、つねに持っています。同時に、府中という街を代表している自覚もあります。府中には日本に来た時から自分を受け入れていただいて、うれしく思っています」
決戦を終えて防具を外した右手の甲は、はっきりと腫れ上がっていた。それでも表情を歪めたりせずに取材を終え、笑顔で席を立った。世界のスーパースターは、最後まで華麗なのである。

木村は2シーズン連続でベストフィフティーンに名を連ねた。「素直に嬉しいです」と頬を緩める。
決勝では今シーズン最長の72分までプレーした。「最後はもうホントに死に物狂いで。ここで気を抜いたらダメだっていうプレッシャーもあり、精神的にも肉体的にも、今シーズンで1番タフな状態でした」と苦笑いを浮かべた。
連覇達成の瞬間に胸に去来した思いは。木村は昨シーズンとの違いに触れる。
「去年の決勝はただそこにいただけだったな、という。僕自身がチームに貢献できたことは、あまりなかったと思いました。今年はただグラウンドに立つだけじゃなく、何かひとつでもチームに貢献したいと思って臨みました。長い時間プレーさせてもらいましたし、何個かチームのプラスになるようなプレーはできたので、去年の反省を生かして少し改善できたかな、と思います」

グラウンドの内外で友情を結び、日々の練習で技術と感性を磨き、喜びも悔しさも共有した東芝ブレイブルーパス東京の選手とスタッフは、リーグワン史上初の連覇を達成して2024-25シーズンを終えた。昨シーズンに続いて新しい景色を切り開き、猛勇狼士たちはしばしの休息を迎えたのだった──。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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