【物語りVol.161】連覇を成し遂げ、クラブは新たな段階へ

■荒岡社長と星野プロデューサーが退任
7月14日、東芝ブレイブルーパス東京は定例記者会見を行いました。連覇を達成したプレーオフファイナルから一か月半ほどが過ぎ、事業と競技の両面から24-25シーズンを振り返ります。
この日は荒岡義和代表取締役社長、星野明宏プロデューサー、薫田真広GMが出席しました。最初に荒岡社長より、退任の報告がありました。
「2021年8月の東芝ブレイブルーパス東京株式会社の設立以来、代表取締役社長を務めてきましたが、今シーズンを持って退任させていただきます。理由としては、2025年がひとつのターゲットでした。ここで優勝することと、1試合あたりの観客動員8000人を目標にしていましたが、どちらも1年前倒しで達成することができました。24-25シーズンは東芝創設150周年の節目で、もう一度優勝と8000人以上の観客動員を目標としました。それも達成できましたので、良い状態で新体制へ移行したほうがいいだろうと判断しました」
荒岡社長は定例会見に欠かさず出席し、どんな質問にも丁寧に答えてきました。ホストゲームでは試合前に挨拶に立ち、気持ちのこもったメッセージを送り続けました。親しみやすく飾らないキャラクターは、メディアにもONE Lupusのみなさんにも愛されました。社長自らがその言動によって、東芝ブレイブルーパス東京のブランドイメージを向上させていきました。

星野プロデューサーも退任します。
「東芝ブレイブルーパス東京は伝統あるチームで、外部の血が入るのはかなりレアなケースでした。そのなかで、荒岡社長と薫田GMのお力添えで、働きやすい環境を作っていただきました」
22年7月に着任した星野プロデューサーは、画期的な企画を実現させてきました。22-23シーズンに実施された『リアル・グラウンド・サウンドシステム』は、大きな反響とともに地上波のニュース番組で紹介されました。今ではホストゲームの名物企画となっている『ファミリーロード』も、22-23シーズンに始まったものです。
星野プロデューサーは着任直後、19年7月期に放送されたラグビーチームを舞台とするドラマ『ノーサイド・ゲーム』を持ち出し、「あのドラマのリアル版が始まります」と話しました。当時の言葉を受けて、「おかげさまでリアル『ノーサイド・ゲーム』の第一章は、原作を超える2連覇という結果で終わることができました」と、充実感をにじませました。
荒岡社長は7月末で、星野プロデューサーは8月末での退任となります。

荒岡社長の後任には、薫田GMが着任します。
「先週の金曜日に内示を受けまして、GMとの兼務でやってほしいと。ひとつ言えるのは、事業と強化は両輪で、いま右肩上がりのチームをさらに発展させたい」
薫田GMは東芝ブレイブルーパス東京の選手として、ラグビーW杯に3度出場しています。日本代表に携わったこともあり、東芝ブレイブルーパス東京の強化を担いながら、日本ラグビー全体に絶えず目を向けてきました。この日の会見でも、リーグワンや日本ラグビーに触れています。
「覚悟を持ってやっていかなければ、と思っています。このクラブをより良くするために、トップを任された自分が強いパッションを持たないといけない」

■事業面でも成長を止めることなく
続いて、荒岡社長より24-25シーズンの事業報告がありました。
最初にプレーオフ期間の広告費換算についてです。プレーオフセミファイナル1週間前(5月19日)から、ファイナル後1週間(6月8日)までの間に新聞、雑誌、ウェブ媒体、SNS、テレビで、東芝ブレイブルーパス東京がどれぐらい取り上げられたのかを調べたものです。
23-24シーズンは約47億円でしたが、24-25シーズンは約73億円という結果が出ました。そのうち約52億円を、テレビが占めています。
荒岡社長は「チームへの注目度が上がったことを、証明していると思います。選手が知られてきたことが数字を押し上げている」と分析します。
24-25シーズンの事業売上高は、7億2,000万円にのぼりました。母体企業からのスポンサー収入を除くチケット、グッズ、ファンクラブ、アカデミーの事業売上高の総計で、対前年比126%増です。
スポンサー収入は3億5,700万円(対前年比128%増)で、協賛企業数は165社を数えます。どちらもシーズン前の目標をクリアしました。
チケット収入は2億100万円でした。リーグワン全体の観客数が伸び悩むなかで、昨シーズンの1億8,800万円から増収を達成しました。1試合平均入場者数は、昨年の10,045人から10,125人へ伸ばしています。この数字は、リーグ3位に食い込むものです。
「観客動員は微増ですが、リーグワンディビジョン1の平均観客数は10%以上も下がっています」と荒岡社長は補足します。24-25シーズンは札幌、鹿児島でホストゲームを開催し、首都圏でのホストゲーム7試合では11,123人を動員しました。
グッズの売上げは「非常に伸びました」(荒岡社長)。昨シーズンの6,000万円から、1億1,000万円まで伸びています(対前年比168%)。
ファンクラブ収入は、4180万円(対前年比126%増)で、全体加入者数は16,130人(128%増)です。22シーズンは1,814人でしたから、ファン層を右肩上がりに拡大させていることが分かります。ホストゲームのイベントを充実させたり、ニーズに合わせたグッズや飲食を販売したり、メタバース空間『STARDUST LAND』へ出店したりと、前例にとらわれない試みが売上げにつながっているのでしょう。
アカデミー収入は2,100万円で、対前年比140%増です。ルーパス塾生徒数は161人で、こちらは対前年比121%増です。ルーパス塾で楕円球を追いかける子どもたちのなかから、将来的に東芝ブレイブルーパス東京でプレーする選手が現われるかもしれません。
東芝ブレイブルーパス東京はリーグワン連覇を達成したラグビーの競技力だけでなく、事業面でも成長を続けています。

■「攻撃のDNA」オフロードはプレーオフでも強みに
競技面については、薫田GMが説明をしていきます。最初に触れたのは、リーグワン連覇後の府中市主催の優勝報告会と、ファン感謝イベントでした。薫田GMは日頃から関係の深い自治体、ONE Lupusのみなさんの支援に、改めて感謝を伝えました。また、連覇を成し遂げたチームに向けては、K9と呼ばれるメンバー外選手の奮闘にも触れました。
スタッツについては、リーグワン全体の傾向から東芝ブレイブルーパス東京の戦いぶりまで、様々な角度から評価していきます。ポジティブなものだけでなく、今後の課題となる数字についても、しっかりと検証しています。
昨シーズンからの顕著な変化のひとつに、ペナルティの数があげられます。ディビジョン1の12チームで8番目に多かった昨シーズンから、リーグで4番目に少ない数字となっています。
薫田GMは「東芝はペナルティが多いと言われてきましたが、かなり改善された。就任当初からリーグワンで一番ペナルティの少ないチームを作りたいと考えてきた」と説明します。「選手、チームとしての習熟度をあげる」ことで、「さらに良い数字を作り上げたい」としました。
レギュラーシーズンでは15勝1分2敗の成績を残しました。勝点は「71」を記録しました。これは、14勝2分2敗で2位の埼玉WKと同じでした。
薫田GMからは、ボーナスポイントを取っている試合数の違いが指摘されました。東芝ブレイブルーパス東京の8試合に対して、埼玉WKは10試合だったのです。さらに、3トライ差を決めた時間帯に着目し、埼玉WKは64分、東芝ブレイブルーパス東京は70分という分析がありました。その背景について、80分の試合時間を4つのクォーターに分け、時間帯ごとにポゼッションやテリトリーなどの項目に着目しています。そこからチームの戦いぶりを読み解き、成果と課題を整理しています。
プレーオフに進出した6チーム内でも、スタッツを比較検証しています。6チーム内の対戦で1試合平均4.9トライを記録していますが、4.7トライを奪われています。薫田GMは「トップチームとどう戦い、安定的なパフォーマンスをしながら勝点を積み重ねていけるか」を追求していく、と話しました。
そのうえで、今シーズンの戦いぶりをこうまとめます。
「リーグ戦では攻撃面で非常に秀でていた。プレーオフではそれにディフェンス面の向上も加わった」
「攻撃のDNAであるオフロードはプレーオフでも秀逸だった」
「プレーオフではテリトリー面で向上した。反則の少なさも特筆すべき」
「スクラムの安定性とラインアウトの防御面で貢献した」

■モウンガ選手が示す「東芝へのロイヤリティ」
24-25シーズンは、34人が試合に出場しました。50人を超えるチームもあり、ディビジョン1でもっとも少ない数字です。
これについて薫田GMは、「メディカルスタッフが頑張ってくれ、選手のケアをしながらケガ人を出さずにシーズンを過ごすことができた」と評価をします。同時に、選手のプレータイムを見つめながら、「若い選手に経験を積ませる機会が少なかった」ことを反省点とします。創部以来の「人を育てる文化」を正面から見つめ、「若手の育成にフォーカスしていきたい」と言葉に力を込めました。
最後に、チーム全体が東芝へ示すロイヤリティとして、ある象徴的なシーンが紹介されました。試合後のロッカールームで、リッチー・モウンガ選手が府中事業所の作業着を着ている写真が紹介されたのです。
モウンガ選手はシーズン中に、「東芝という会社を代表して戦っている気持ちがあります」と何度も話していました。オールブラックスの一員としてラグビーW杯ファイナルの舞台に立った世界的なスーパースターが、親会社への忠誠心を行動で示す。その意味は大きく、とても価値があるものです。
東芝ブレイブルーパス東京は、なぜ連覇を成し遂げられたのか。その理由を物語るトピックと言えるでしょう。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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