【物語りVol.189】 LO カラム・マクドナルド

カラム・マクドナルドは、『善因善果(ぜんいんぜんか)』の四文字を心の奥深くまで刻んでいる。「善い行ないを積めば、やがて善い報いがもたらされる」との仏教由来の教えである。
「何事も自分の行動次第だというその教えは、小さいころから父に言われていました。日本語ではどう表現するのかを聞いたときに、この言葉に出会ったのです」
真面目で礼儀正しい。気さくで、親しみやすい。ファンサービスや取材の機会では、笑顔いっぱいに両手を差し出す。2メートルを超える長身を、折りたたむようにして挨拶をする。片言の日本語が、親近感を抱かせる。
『善因善果』が持つ意味を、カラムは体現している。
父は野球オーストラリア代表の選手だった。兄コナーも野球に打ち込み、26年のWBCで東京ドームのマウンドに立った。
「僕自身は野球でもラグビーでも、ある程度のレベルまで到達していました。次のステップへ進むために、どちらかに絞るべきタイミングを迎えて、19歳からラグビーを選びました。ラグビーのフィジカル的な部分にすごく魅力を感じたのです」

20歳になる直前の20年1月には、ジュニアワラビーズのトレーニングキャンプに招集された。母国でキャリアを築いていくことは可能だったはずだが、22年9月に来日する。NTTコムに加入した。
「日本のラグビーは若い選手に投資して育てるということを、すごくやっていると思っています。自分もその流れで呼んでもらったと思いますが、22年はまだコロナ禍でした。日本に来ること自体が初めてで、ひとりで、まったく知らない環境でしたから、すごく不安な気持ちもありました。大変だったか?」
ソウデス、ホントソウ、とカラムは日本語で答えた。
「もうすべてのことが、新しかったので。僕が幸運だったのは、クラブの人たちが心の支えになってくれ、グラウンドの中でも外でも助けてくれたことです。おかげさまで日本のことを早く理解することができましたし、日本を愛するまでに時間はかからなかったですね」
NTTコムには1シーズン在籍し、22-23シーズンから東京SGへ所属先を移した。日本での生活にはすでに慣れていたが、ラグビーの違いに直面した。トップリーグ時代からタイトルを争ってきたチームでは、より高いスタンダードを求められた。
「サントリーはすごくハードな練習をします。選手一人ひとりに求めるレベルもすごく高い。すぐにそのレベルに到達できたとは言えなかったかもしれませんが、少しずつ、少しずつ、時間の経過とともに適応していったという感じです」
東京SGでは出場機会が限られていたなかで、25-26シーズンの新加入選手として加入した。藤井淳アシスタントGM兼採用は、「19歳からラグビーを始めた未完の大器です」と紹介した。そのうえで、「決して器用ではないですが、元々持っている身体の強さ、プレイクダウンの激しさは、接点無双を掲げる我々のチームに打ってつけです」と、204センチ、123キロのサイズに秘められたポテンシャルに期待する。

東芝ブレイブルーパス東京の一員となったカラムは、ポジティブな驚きを覚えた。「間違った見られかたをしている」と気づいた。
「ここへ来る前に聞いていたのは、とにかくフィジカルにいく、スキルどうこうじゃなくてとにかくフィジカル、と聞いていました。でも実際は高いスタンダード、高いスキルセット、高いクオリティを、選手一人ひとりに求めています。全員が高い水準でやりきることを意識しています」
トディことトッド・ブラックアダーHCは、「いままで出会ったことのないタイプのHCです」と言う。表情は喜びに満ちている。
「東芝ブレイブルーパス東京に来て、トディのもとでラグビーをすることは、これまでの人生の決断で一番良かったことだと思います。彼は選手一人ひとりのことを絶えず気にかけて、それぞれがベストを尽くせる状態を作ろうとしています。トディにはいつも感謝していますし、たくさん恩返しをしなければなりません」

チームにはラグビーW杯出場経験を持つリーチ マイケルやリッチー・モウンガ、シャノン・フリゼルらが所属する。リーチと同じ在籍15年目の三上正貴、森太志、豊島翔平らの経験者もいる。
「そういった選手たちと日常的に接しているのは、ものすごく貴重な経験であり、学びになっています。彼らはこれまで成し遂げてきたものに関係なく、毎日、毎日、とにかくうまくなるために練習しています。プロフェッショナルとは、やりたくないことができる、誰も見ていなくてもハードワークができることだと考えますが、このチームにはそういう選手がたくさんいます。本当に尊敬できます」
25-26シーズンの東芝ブレイブルーパス東京は、勝利から長く遠ざかる時期があった。だからといって、チームのスタンダードが変わるわけではない。チーム内で『ハンター』と呼ぶスタートの15人はもちろん、『アルファ』と評されるリザーブ入りについても、熾烈な競争が繰り広げられてきた。
「僕自身はこれからも長く日本でプレーして、将来的にブレイブブロッサムズのジャージを着たいという夢を抱きます。その夢を実現するための環境に、身を置くことができています。東芝ブレイブルーパス東京のジャージには、チームのロゴには、本当にプライドがあると感じています。選手、スタッフがここまで自分を気にかけてくれるクラブは他にありません。みなさんの気持ちに報いるためにも、タイトル獲得に貢献したいのです」

自身にとってのラグビーは「人生の先生」と言う。そして、グラウンドで戦うことで、「プライド」に目覚めるのだ。
「人生で大切なことを教えてくれます。成功も痛みも感じますし、ハードワークとは何か、タフであるとはどういうことか、ケガとか不調のときにどうするべきか、といったことも学べます。そして、自分がプライドを持って取り組んでいるものであり、自分自身も家族も、自分という存在を誇りに思えるものです」
好きな日本語を聞くと、「応援してくれて、ありがとうございます」と、はっきりとした日本語で答える。「ファンの人たちの支え、応援をすごく感じるので、そのファンのみなさんに感謝を伝える言葉が、すごく好きなんです」と、嬉しそうに話す。
26年春に、第一子となる娘が生まれた。自らを奮い立たせる新たな、そして大きな動機付けを、カラムは得ることができた。
自らが信じることを、実際の行動へ移して。時には失敗をするかもしれないけれど、たじろぐことなく、自分を疑うことなく、一歩ずつ前へ。
今日より眩しい明日を作るために、カラムは目の前のプレーに集中する。
(文中敬称略)
(ライター・戸塚啓)

いよいよノックアウトステージのプレーオフが始まります。
東芝ブレイブルーパス東京は、5/24(日)14:30より秩父宮ラグビー場にて、リーグ戦3位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイと対戦します。
会場で皆さまの絶大なる応援をお願いいたします!





























































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