【物語りVol.29】 PR 金 寛泰
東芝ブレイブルーパス東京に寄せる金寛泰の思いは、14歳にして芽吹いた。
「ラグビーをやっていた父の影響で、自分も中学1年から始めました。2年の秋ごろに父がCS放送のJ―SPORTSの契約をしてくれて、初めてトップリーグを観たんです。それが、2006-07シーズンのマイクロソフトカップ決勝の東芝ブレイブルーパス対サントリーサンゴリアス戦でした。それがもう、衝撃的過ぎて」
古くからのブレイバーの方ならば、「がんて」や「がんさん」と呼ばれるプロップの言葉に大きく頷くに違いない。7対13でリードされたまま後半40分過ぎに、ルアタンギ侍バツベイが相手を吹き飛ばしてトライを奪う。コンバージョンも決まり、東芝ブレイブルーパスが土壇場で試合を引っ繰り返し、マイクロソフトカップ3連覇を達成したのだった。
「それまでは高校ラグビーしか見ていなくて、中学生の僕は学生のひたむきさとかドラマに感銘を受けていたんですけど、それ以上にトップリーガーってこんなレベルでやっているんだという衝撃がすごかった。こんなにも愚直に身体を当て続ける人たちって何なんやろう、自分ここでやりたいと思ったんです」
大阪朝鮮高級学校で高校日本代表候補にリストアップされ、関西学院大学では2年時にU20日本代表に選ばれた。副主将として最終学年を迎えた金は、夏合宿で東芝ブレイブルーパス東京との接点を得る。
「大学の同級生の德永(祥尭)がブレイブルーパスに入ることが決まっていたので、(採用担当だった)猪口さんが僕らの試合を観に来ていたんです。そのときに、自分にも声をかけていただきました」
3年時から複数のチームの勧誘を受けていた金は、すでにある社会人チームへの加入を決めていた。しかし、憧れの東芝ブレイブルーパス東京からのリクルートである。2年時から東芝OBのアンドリュー・マコーミックが大学のヘッドコーチを務めていたことも、ブレイブルーパスへの憧憬を深く強いものにしていた。
悩んで、悩んで、本当に悩んで、色々な人に相談をして、最後は東芝ブレイブルーパス東京入りを決断した。加入が内定していた社会人チームには、精いっぱい頭を下げて謝罪した。
15年度の新加入選手として東芝ブレイブルーパス東京に入った金は、トップリーグの名門として君臨するチームのカルチャーに驚かされた。
「レベルの高さはもちろんなんですけど、練習から100パーセントでやり合う環境はすごかった。とくにベテランの選手ほどハードワークする。僕の1年目だと、立川剛士さん、仙波智裕さん、吉田朋生さんといったジャパンの経験を持つみなさんが、メンバー外の立場でも一番と言っていいぐらいにチーム全体を鼓舞していました」
17年シーズンにトップリーグデビューを飾ると、プレー時間の短い試合でも魂を込めていった。ブレイブルーパスのカルチャーを継承するひとりとして、ブレイブルーパスを愛する男として、金は日々の練習から汗を絞り出していった。
湯原祐希さんと過ごした時間も、かけがえのないものとなっている。20年9月に急逝した「ユハさん」の話をすると、もう一度会いたいという衝動がどうしようもないほどにこみ上げてくる。「だから、今日は話すのをやめておきます」と一度は断ったのだが、自然と思い出があふれ出てきた。
「ある日の練習で、僕はリザーブの立場でスクラムの練習に入ったんですが、組んだら落ちてしまって。当時のFWコーチから『抜けろ』と言われて、それから1本も組ませてもらえずに練習が終わりました。当然落ち込んでいたら、バリバリのスタメンのユハさんが僕に気づいて、スクラム練習から外されたことには触れずに、どうすればよくなるか聞いてくれて、改善策を話してくれたんです」
それから数か月が経った18年12月、金にチャンスが巡ってくる。三上正貴の負傷で前半途中からピッチに立つと、スクラムで相手のペナルティを誘う。金とともにフロントローを構成する湯原が、「めちゃくちゃ喜んでくれた」のだった。
「髪の毛をぐちゃぐちゃにして、一緒に喜んでくれまして。選手のときもコーチのときも、色々な立場の人間に目線を合わせられる。あんなに選手をフラットに見られる人がいるんだ、と思わされました」
中学と高校ではキャプテンを任され、大学ではバイスキャプテンを務めた。金自身もチーム全体に目配せができるタイプだ。
「プレーヤーである以上、まずはグラウンドの中で自分を表現し、プレーで貢献したい。その上でグラウンドの外では自分だからできることをやっていかなければいけない、と思っていまして。いまの僕自身を見ると、チームのなかで格好いい大人になれていない。自分で考えて、自分の意見を言えるようにならないと」
東芝ブレイブルーパス東京というチームの存在意義やラグビーの価値についても、思いを巡らせている。愛するチームと競技の未来図に、たくさんの書き込みをする日々だ。
「僕たち東芝ブレイブルーパス東京の存在価値を、社会に対して定義したいなと思っていて。試合を観に来てくれた人たちに、果たして何を提供するのか。競技の面白さとか感動を与えるというのはあるのでしょうが、根本的なところとして地域とか社会に必要なものと言うとおこがましいですが、地域や社会に何か少しでも影響を与えられるような存在にならないといけない、と」
そのために、何が必要なのか。何をしていくべきなのか。ラグビーという競技の特性を生かしたいと、金は考えている。
「子どもたちに対して何ができるか、というのは大切だと思うんです。僕は在日韓国人というバックグラウンドを持っていますが、ラグビーは競技のなかで多様性が育まれて、なおかつ真摯に取り組んでいる人を仲間として認め合う。それはラグビーの魅力だと思っていて、その多様性を考えると、もっと色々な人を巻き込んでいけば……」
ラグビーに対して本当に真摯で、ハードワークする人間が集まっている。東芝ブレイブルーパス東京なら社会に対して新しい価値を提供できるはずだ、と金は信じている。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)
【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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ぜひ試合会場にお越しいただき、東芝ブレイブルーパス東京の応援をよろしくお願いします!
・1/22(日)トヨタヴェルブリッツ戦(@秩父宮ラグビー場)
・1/28(土)花園近鉄ライナーズ戦(@秩父宮ラグビー場)
・2/5(日)東京サンゴリアス戦(@秩父宮ラグビー場)