【物語りVol.60】フォラウ 愛世 通訳 / アシスタントFWコーチ

 東芝ブレイブルーパス東京に欠かせない「ブリッジパーソン」だ。英語と日本語を駆使して、外国人と日本人を結びつけている。
 トンガのワイオラで生まれ、高校1年時に埼玉工業大学深谷高校(現在の正智深谷高校)に留学した。海外へ行きたいとの思いを育んでいたから、誘いを受けた際には迷わず来日を決めた。
「最初は大変でしたね。まったく知らない国で、日本語が喋れなければ、日本食もまともに食べたこともなかったので。英語は喋れたけれど、完璧ではなかったですし。大変だったことをあげたら、ホントにキリがないです(笑)」
 同じトンガ出身で同級生のホラニ龍コリニアシと、ひたすらに日本語を勉強した。来日から半年はストレスが絶えず、体調を崩しがちだった。
「1年ぐらい経った頃からかな、ストレスを感じなくなりました。日本人の友だちも、少しずつできていったので。心が折れそうになったら、プレーにすべてぶつけました。トンガの自宅を出た瞬間から、日本でやってるんだ、ラグビーをやり切るんだ、という気持ちでいましたから」

 埼玉工業大学から豊田自動織機へ加入し、その後は日本協会所属選手としてセブンズ日本代表に名を連ねた。7人制から15人制へ戻ると、ヤマハ発動機(現在の静岡ブルーレヴズ)とNECグリーンロケッツ(現在のNECグリーンロケッツ東葛)でプレーした。
 16―17シーズンを最後に現役から退き、通訳としてNECグリーンロケッツのスタッフ入りした。東芝ブレイブルーパス東京には、21年のシーズンから在籍している。
「現役引退後はコーチをやりたい希望があって、そのための勉強として通訳を選びました。通訳として気をつけるのはスピードですね。現場でのやり取りをどれだけ正確に、明確に、速く、伝えられるか。最初はやっぱり大変でしたけれど、最近は慣れてきました」
 日本語を話したいのに話せない。話してもうまく伝わらない──外国人の選手やスタッフなら一度はぶつかる悩みを、彼は実体験している。何気ない助言に、温もりがある。
「日本語がうまく喋れなくても、自分からコミュニケーションを取っていくのは大事です。分からないとあきらめたら、それで終わってしまいますからね。分からなくても自分から飛び込んでいくのは大事でしょう。知らない世界に溶け込むには、コミュニケーションを取って、自分の強みを生かすことが大事だと思います」
 流ちょうな日本語を操る裏側で、学びを欠かさない。日本語でも英語でも、耳慣れない単語にぶつかったらメモを残し、その日のうちに調べる。「それもだいぶ、少なくなってきましたが」と笑う。
「日常会話ではなくラグビーについては、経験者じゃないと伝えられないことがあります。プロの通訳でも難しいんじゃないかな、と思うことも時にはあります。とくにFWの練習は難しいんですね。専門的なところを、細かく伝えなければいけないので」

 2022-23シーズンから、通訳に加えてアシスタントFWコーチの肩書を得ている。生き生きとした表情で話す。
「アシスタントコーチの仕事も、すごく楽しいです。いまのチームはトッド・ブラックアダーさんのやりたいことが明確になってきて、すごくタフなチームになっています。僕が現役当時に対戦したチームもタフでしたが、それがまた戻ってきていると感じています」
 チーム内のコミュニケーションを円滑にする通訳として。FW陣のスキルアップを支えるアシスタントコーチとして。東芝ブレイブルーパス東京に欠かせないひとりなのである。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

 


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