【物語りVol.71】田口 健太郎 通訳
トッド・ブラックアダーHCをはじめとする外国人スタッフや選手たちと、田口健太郎は密接な関係を築いている。東芝ブレイブルーパス東京というチームはファミリーのような空気に包まれているが、日本人と外国人が笑顔で語り合うすぐそばに、裏側に、この男がそっと寄り添っている。
「トッド体制になってから、ミーティングなどをする前はスタッフ内で打合せをしています。あらかじめ確認したいことがあれば、そのタイミングで聞いておきます。実際に通訳をしているときもアドリブで確認をして、時間をかけずに自分が理解して通訳する、ということをやっています」
トッドHCが就任した2020年シーズンは、新型コロナウイルス感染症の影響でリーグ戦がシーズン途中で終了した。その後も感染予防の観点から、マスクの着用や会食の自粛などの措置が取られた。お互いを深く理解するのが難しい時間を過ごしながらも、田口は外国人スタッフや外国人選手との距離を縮めていった。
「日々のトレーニングや試合後の記者会見だけでなく、自分はラグビー以外の部分、たとえば契約の話に立ち会うこともあります。難しい話、繊細な話、込み入った話に加わることがありますので、信頼関係が欠かせません。このチームには人間的に素晴らしい方が揃っているので、とても仕事がしやすいですよ」
ひと口に通訳と言っても、その仕事ぶりは個人のキャラクターによって異なる。忙しくメモを取る人がいれば、ポイントだけ書く人もいる。感情を込めて訳す人がいれば、自身の感情は抑え目にする人もいる。「そうですね、色々なスタンスがありますね」と田口もうなずく。
「僕自身は話し手の思いを伝えたい、というのがあります。そのためには、どんなやりかたがいいのか。ということで、ある程度言葉にエネルギーを乗せるようにしています。それから、ある人の英語を日本語へ通訳するときに、単語の意味をそのまま訳すのではなく、その場面で一番必要とされている意味のものを選ぶ。クオリティを提供できるかどうかが、問われているのだと思っています」
日本語を英語に、英語を日本語に変換していくのだが、辞書から抜き出したような変換では情報が足りないこともある。「そこのクオリティをしっかり追求したいんです」と、田口は言葉に力を込める。
「僕が通訳した言葉の意味が通じて、理解してもらっていると、話し手も聞き手もうんうんと頷いたりするじゃないですか。表情が穏やかになったりもして。そうやって気持ちがつながっていけば、みんながスムーズに動くことができて、ストレスを感じることがないでしょう。通訳が入りつつもその存在を気にせずに、言っていることが分かる。そういう状態が、僕にとっては理想的ですね」
チームの活動に不可欠な仕事を担いつつも、自身の存在が必要以上に目立ってはいけない。春の心地良いそよ風のようでありたい──田口が思い描くとおりの環境を、東芝ブレイブルーパス東京で見つけることができる。
(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)
【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【チケット情報】
4月14日(金)は三菱重工相模原ダイナボアーズと対決!!
ぜひ秩父宮ラグビー場にお越しいただき、東芝ブレイブルーパス東京の応援をよろしくお願いします!
・4/14(土)三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(@秩父宮ラグビー場)