【物語りVol.74】FL マット・トッド

 東芝ブレイブルーパス東京の歴史を振り返ると、ニュージーランド出身の選手たちの足跡に気づく。東芝ブレイブルーパス東京と日本代表で主将を務めたアンドリュー・マコーミック、スコット・マクラウド、デイビット・ヒル、スティーブン・ベイツ、リチャード・カフィらが、クラブに長く在籍してグランドの内外でチームに好影響をもたらした。
 マット・トッドもクラブにレガシーを残している。2020年シーズンに「勇狼」の一員となり、現在は4シーズン目を過ごしている。
「トップリーグの各チームのプレースタイルには、以前から惹かれていました。そのなかで幸運にも、東芝ブレイブルーパス東京に加入できるチャンスがめぐってきました。ブレイブルーパスが素晴らしい歴史を築いてきたことは聞いていて、このチームが大切にしているハードワークする姿勢は、自分自身も誇りにしているところでした。すごくいいフィット感だと思いましたし、家族とともに過ごすのに日本はとてもいい環境です」
 ワールドカップで3度の優勝を誇るラグビー大国で、8歳から楕円球を追いかけてきた。トディの愛称で呼ばれる少年のロールモデルは、3歳年上の兄だった。
「兄と競い合うのは難しかったのですが、彼のおかげでハードに鍛え上げることができました。学校でも、公園でも、自宅の裏庭でも、いつもボールに触れていました。週末は午前中に自分のチームでプレーをして、夜はスタジアムへ試合を観に行っていました」

 転機が訪れたのは高校生年代だ。カイアポイハイスクールでプレーしていた彼は、その実力を評価されてクライストチャーチボーイズハイスクールに奨学金付きで招かれる。のちにオールブラックスのチームメイトとなるコリン・スレイドやオーウェン・フランクスや、ティム・ベイトマンらと一緒にプレーした。ベイトマンとはクルセイダーズと東芝ブレイブルーパス東京でもチームメイトになる。
 そこから先は順調にステップしていく。
「高校卒業後はカンタベリーに属して、段階的にステップアップしていくことで、自信や手ごたえを得ていきました。素晴らしいクオリティの選手たちと肩を並べることで、そういった選手のなかでもできるんだ、と自分を信じることができるようになったのです」
 2010年からは、クライストチャーチの名門クルセイダーズのユニフォームに袖を通す。入団当時の指揮官は奇しくも、トッド・ブラックアダーだった。
 オールブラックスには13年にデビューし、19年のワールドカップに出場する。準々決勝のアイルランド戦、3位決定戦のウェールズ戦を含む4試合に出場した。日本中が熱狂したワールドカップを戦い終えたのちに、東芝ブレイブルーパス東京の一員となった。
「東芝ブレイブルーパス東京には、最初からすごくいい印象を持ちました。エネルギーのある若手がいて、経験豊富はベテランがいる。チームのバランスが取れているし、才能のある選手が揃っています」
 選手を鼓舞する意味を込めて、期待する若手をあげてもらう。トディが最初にピックアップしたのはワーナー・ディアンズだ。
「すでに日本代表に選ばれていますし、あれだけの身体を持っている。身体の大きな選手は、ときにコーディネーションがうまくいかないことがありますが、彼はそうではない。スキルもしっかりしています」
 小鍜治悠太と松永拓朗の名前もあげた。
「ふたりとも加入2年目ですが、去年の時点で活躍していました。小鍜治はセットピースのスクラムが強みですが、プロップとしてボールキャリーができて、スキルがしっかりしている。オフロードもできますし、プロップでありながら長い出場時間に耐えうるだけのものを持っている。松永はランの能力、スピード、判断に長けています。1対1でどうすればいいのかを分かっていて、自分がボールを共有できる位置にいて、精神的にもしっかりとチームを仕切っています」

 チームの現在地はどうだろう。トディは会話のギアを変えた。
「一番大切なのは一貫性です。それは試合中だけでなく、そこに至る準備についても、個人、チームともに一貫性が求められます。いまのチームなら、ベストなプレーをすればどの相手にも勝てる、という手ごたえを得ています。ただ、試合当日にそうなってほしいと願うような状態では、またまだ足りない。準備の段階から肉体的にも精神的にも、一貫性を持つ。それによって、週末の試合でのパフォーマンスがまさに一貫性を持ったものになる」
 試合中はもちろんシーズンを通して、パフォーマンスの波を小さくしていく、ということだろうか。34歳の経験者は頷いた。
「素晴らしいトライを取るし、素晴らしいディフェンスをすることもできる。ただ、我々はベストなときとベストでないときのギャップがまだ大きい。一貫性のあるチームはその差が小さいのです」
 トディが話す「差」は、練習への取り組みかたに表われる。
「練習に向かうメンタル的な準備が大事です。練習だからといってフォーカスを持たずに単純に取り組むのと、ホントにここを良くすると考えてやるのは大きな違い。個人、個人がしっかりとした目的意識を持って取り組めば、チームという集団も良くなっていきます」
 そう言ってトディは、「習慣」という単語を持ち出した。オールブラックスで25キャップを獲得した男の矜持である。
「その選手にとって当たり前となっているもの、つまり日常の習慣が試合に出る。練習をただこなすだけになっている選手が、プレッシャーがかかる場面で良いプレーをすることができるでしょうか。一人ひとりにとっての日常を、より高いレベルに変えていくことが大切でしょう」

 チームに対して厳しい言葉を投げかけるが、表情に険しさは感じられない。むしろ、とても楽しそうだ。
「試合で良いプレーをするためには、オフザフィールドで良い関係性を築くことが大事です。フィールド内外でジャーニーを一緒に楽しむことが、チームの成功に結びついていくのでしょう」
 東芝ブレイブルーパス東京とともに過ごす日々は、トディの人生を豊かなものにしている。クラブの歴史に名を残すレジェンドの旅は、どこまで続いていくのだろう──。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【チケット情報】
4月14日(金)はNTTリーグワン2022-23第4節で苦杯を喫した三菱重工相模原ダイナボアーズとの対決です!プレーオフトーナメント進出に向け、残りの2戦は絶対に負けられない戦いとなります。
ぜひ秩父宮ラグビー場にお越しいただき、東芝ブレイブルーパス東京の応援をよろしくお願いします!
4/14(金)三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(@秩父宮ラグビー場)
※当日券も会場にて販売します(4/14 16:30~)

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