【物語りVol.75】久保 慎太郎 アナリスト

 中央大学を卒業した21年春から22―23シーズンのスタッフ入りまで、久保慎太郎のラグビーキャリアには1年半ほどの空白期間がある。より正確に表現すれば、所属先のない期間があった。
「大学を卒業したらニュージーランドへ留学に行こうと思っていたのですが、新型コロナの感染拡大で渡航できなくなってしまいました。そのため、卒業後も大学で練習をしながら、東芝ブレイブルーパス東京を含めて色々なチームの練習に参加させてもらいました」
 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、ようやくニュージーランドへの渡航が可能となったタイミングで、東芝ブレイブルーパス東京からスタッフ入りの打診を受けた。
 現役選手としてプレーしたい希望は、もちろんあった。それでも東芝ブレイブルーパス東京の練習に参加したことによる気持ちの変化が、スタッフ入りの決断を後押しすることとなる。
「リーグワンのどこかのチームに加入できたらという気持ちが、東芝の練習に参加していくうちに『このチームでラグビーをやりたい』というものに変わっていきました。もし他のチームでプレーできることになったとしても、そこで東芝と同じ熱量でプレーできるのかと考えたときに……」
 久保の頭に、疑問符が浮かんだ。同じ熱量を注げる、とは考えられなかった。
「いくつかのチームの練習に参加させてもらったのですが、東芝ブレイブルーパス東京は異質というか、このチームはすごいなと感じました。プロの世界ですから、自分のことにフォーカスするのが普通かと思っていたのですが、いい意味で学生のようなところがあるというか、いい意味でお互いに関わっていく感じを受けました。選手とスタッフの距離も近く、練習が終わってスタッフに何か聞きにいくと、それを受け入れてくれる。そこに選手が加わったりもする。それぞれの人がチームを作っている感じがすごくあり、刺激をもらえる人が多い。そういう環境は特別だと思う自分がいて、そこに惹かれたところがありました。東芝ブレイブルーパス東京というチームじゃないとできないことがあるのでは、という部分がすごく大きかったのです」

 プレーヤーとしてのキャリアを閉じることは、大きな、重い決断だった。小学校1年からラグビーに親しみ、大阪桐蔭高校、中央大学へと進んだ。競技に打ち込める環境を作ってくれた両親には、感謝の気持ちしかない。そのうえで、新たな一歩を踏み出した。
「まだ身体が動く年齢でスタッフになることで、アナリストという仕事に覚悟を持って取り組んでいく。そういう気持ちが強くなったところもあります」
 ハイパフォーマンスアナリストの濵村裕之の仕事ぶりに、刺激を受ける日々だ。そして、「もっとやらなければ」と自分を奮い立たせる。
「濵村さんは自分を犠牲にして、チームにコミットしている。チームの勝利に対して全力を注ぐのは、尊敬する部分です。相手チームの分析には終わりがないというか、『こういうデータも取ろう』と思えばいくらでもできます。それだけに、アナリストの仕事が大変なのは、選手のときから何となくですが分かっていました。勝敗に関わる、非常に重要な仕事だと思っています」
 大変な仕事だからこそ、責任とやり甲斐を覚える。情熱を注ぐこともできる。
「濵村さんたちのお手伝いしかできていない自分は、まだまだやり甲斐を感じられるようなレベルではありません。そのうえで言うと、個人的に一番避けたいのは、情報が少ないばかりに相手を過大評価することです。僕自身が選手のときにそういうことがあったのですが、相手が本当の力より大きく見えることがないように。そういうアナリストになりたいと、いまは考えています」
 映像や数字と向き合いながら、久保はチームにとって有益な情報を探して、揃えて、届ける。自分たちアナリストの生み出す情報が、勝負どころでチームの支えになるとを信じて──。

(文中敬称略) 
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【チケット情報】
4/21(金)はついに最終節、昨年度優勝の埼玉ワイルドナイツとの対戦となります。プレーオフトーナメント出場(4位以上)を果たすためには決して負けられない戦いとなりますので、皆様のご声援をよろしくお願いいたします。
4/21(金)埼玉ワイルドナイツ戦(@秩父宮ラグビー場)

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