【物語りVol.76】東口 剛士 採用担当

 2022年シーズンの終了とともに、東口剛士は現役生活にピリオドを打った。
「現役を続けたい気持ちは、もちろんありました。僕は6年間所属して、4回オペをしています。ケガもあってなかなか試合に出られないシーズンがあり、シンプルに自分の力のなさもあって、チームから勇退を伝えられました。そのときに、採用に興味があるかと聞かれました」
 チームからの打診に対して、すぐには答えを用意できなかった。
 悩んで、悩んで、とことんまで考えて、採用担当として再出発することを決意した。たくさんの人の顔が思い浮かんで、新しい仕事への意欲が湧き上がった。
「東芝ブレイブルーパス東京には、他のチームからなかなか声をかけてもらえなかった僕を拾ってくれて、ケガが多いなかで6年間もプレーさせてくれた恩義があります。それと、東芝を含めてお世話になった指導者の方々や仲間に、頑張っている姿を見せることで恩返しをしたかった。周りの人たちへの感謝を示すためにも、この仕事を引き受けたいと考えました」
 94年1月生まれの東口は、まだ29歳である。現役のキャリアに区切りをつけたとしても、試合を観て心がうずくことはないのだろうか。
「そこはもう、割り切れています」と、きっぱりと語る。ケガに苦しんだ自分だからこそできることを、彼は見つけていた。勇退を区切りに始めたことではなく、現役当時から心がけてきたことでもある。
「シーズン中は試合に出ている選手、なかなか出られない選手がいます。ケガが多かった自分には、試合に出られない選手のメンタリティがすごく分かります。一番しんどいと思うんです。なので、試合から何日か経った頃に、そういう選手と食事やカフェに行ったりします。そこは採用担当ではなくOBのひとりとして、僕から何か言うわけでなく、溜まっているものを吐き出してもらいたくて。選手たちは仲間ですし、リスペクトしていますので」

 学生たちのリクルートでは、学校へ足を運ぶだけでなく、チームの練習参加を勧める。誠意をもって説明をしつつ、東芝ブレイブルーパス東京というチームを肌で感じてもらいたいからだ。
「学生に対して『ファミリー感があっていいチームだよ』と説明するんですけれど、さらに分かりやすく伝えるのが難しくて、最初はそれが悩みでした。でも、声をかけた選手にグラウンドに来てもらうと、『ホントいいチームですよね』と言ってもらえる。そう言ってもらえるのは嬉しいですし、『東口さんの言ってたことって、こういうことやったんやな』と納得してもらうのが一番だと、最近は気づきました」
 もちろん、東口自身も学生に真正面から向き合う。「正直、伝えるのは得意ではないんです」と頭をかきながらも、熱い思いを届けていく。
「東芝のラグビーは感動を与えられると、僕は思っています。仲間のために、ファンのために、身体を張り続けて、身体を当て続けて、走り続けて、声を掛け合う。きれいなラグビーではなく泥臭いラグビーかもしれないけれど、誰もが仲間のために行動する。こういうチームで優勝することに意味がある、と思うんです。ほかのチームが悪いとかではなく、東芝ブレイブルーパス東京はそういうラグビーができるチームだよと、学生に伝えています」
 学生に練習参加してもらうことで、チームの素晴らしさにも改めて気づくことができた。「採用になってホンマに思うんですけど、このチームはすごいです」と、自分を納得させるように頷く。
「選手は誰もが、チームと自分のレベルを上げるために一生懸命に取り組んでいる。そのなかで、練習前とか練習中に、僕がお願いをしなくても学生たちに教えてくれるんです。練習後には自主練に誘ったり、寮へ食事に連れていってくれたり。そういうことのできる人間が集まっている。振り返れば僕自身も、天理大学から練習参加した際に、『よう来たな、こっからファミリーやで』と、細かなところまで教えてもらいました」

 チームにふさわしい選手との出会いを求めて、時間と場所を問わずに駆け回る日々だ。東芝ブレイブルーパス東京は、真面目な人材を採用し、選手としても人間としても成長を促すことをポリシーとする。学生たちを見つめる東口の視線にも、チーム編成の「芯」となる部分が宿る。
「東芝の選手は誠実な人間でなければいけない。東芝のカルチャーをしっかり持っている人間でないといけない。それがどんなものか分かっているからこの仕事を任されていると、自分では理解しています。東芝らしさというのは、やはり大事にしていますね」

 採用担当には先輩OBの望月雄太もいる。17年から選手をリクルートしてきた「もっちんさん」からは、日々刺激を受けている。

「ふたりで練習へ行って、練習中の姿、歩いている姿、チームメイトと話している姿なんかを見て、『あの選手は東芝のにおいがする』とか言うんです。選手を観る目がすごいんですよね。そういうところを早く嗅ぎ分けられるようにならなければ、と思います」

 東芝ブレイブルーパス東京のカルチャーを絶やすことなく、力強く継承していくために。歴史をつなぐ仲間を求めて、東口は今日もリクルートの現場へ足を運ぶ。自らが踏み出すその一歩が、チームの未来を豊かにすると信じて。

(文中敬称略) 
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【チケット情報】
4/21(金)はついに最終節、昨年度優勝の埼玉ワイルドナイツとの対戦となります。プレーオフトーナメント出場(4位以上)を果たすためには決して負けられない戦いとなりますので、皆様のご声援をよろしくお願いいたします。
4/21(金)埼玉ワイルドナイツ戦(@秩父宮ラグビー場)

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