【物語りVol.82】SO トム・テイラー

 トム・テイラーの血統は、最高級の証明書付きだ。
 父ワーウィックは元オールブラックスで、1987年開催の第1回ラグビーW杯の優勝メンバーだ。叔父のマリーも70年代後半から80年代前半に、オールブラックスのジャージをまとった。
「ニュージーランドラグビーの歴史のなかで、とても人気のあった時期に父と叔父がオールブラックスでプレーしました。自宅にオールブラックスの選手がいた? いま考えればそういうことになりますけれど(笑)、それが当たり前でしたし、自分にとっては普通のお父さんですからね。とくに意識したことはなかったですよ」
 幼少期から英才教育を受けたわけではない。楽しみながらラグビーに馴染んでいった。
「自宅の近くの公園で、放課後にキックをしていました。友だちと、ときには父と。父からスキルを学ぶことはありましたが、ホントに楽しみながらやっていました」
 ラグビー選手としてのロールモデルは、ダン・カーターとジョニー・ウィルキンソンである。W杯に4度出場した世界最高のスタンドオフと、元イングランド代表のレジェンドを見て、プレーのイメージを広げていった。
「キッカーとしてはもちろん、パスもタックルも含めてスキルセットが素晴らしい。彼らのような偉大なプレーヤーになりたいと思いながら、僕自身もスキルを磨いてきました。一番時間をかけたのはキックです」

 ニュージーランドのカンタベリーでシニアキャリアをスタートさせ、フランス・トップ14の複数クラブでもプレーした。13年にはオールブラックスの一員として、テストマッチ3試合に出場している。
 東芝ブレイブルーパス東京には20年に加入した。トッド・ブラックアダーHCとはクルセイダーズで共闘しており、マット・トッドはかつてのチームメイトである。31歳での入団にあたっては、「新しい経験を積むことを楽しみにしています」と話した。
「東芝にはいい人間が揃っています。常に成長したいという気持ちを持っている。コーチ陣や私の言うことをしっかり聞いて、実行しようとする姿勢のある人間たちです。時間を費やしてスキルアップに注力してきて、ラグビーに対する理解度も高くなっています。それらはすべて、取り組む姿勢が素晴らしいからで、一人ひとりの努力もはっきりと見えますね」
 加入1年目の21年シーズンは、わずか1試合の出場にとどまった。「アキレス腱の大きなケガがあって、なかなか試合に出られなかったですが、2年目はほとんどプレーすることができました」と話すように、ケガの癒えた昨シーズンはプレータイムをしっかりと刻んだ。

 オフザピッチでは、チームメイトとの相互理解を深めている。新型コロナウイルスの感染状況を気にしつつ、ともに過ごす時間を作ってきた。
「私が来日してからここまで2年間は、コロナの制限があって日常生活は難しいところがありました。オフザピッチでチームメイトたちと一緒に過ごす機会は、残念ながら限られていました。つながりを深める機会を得られなかったですが、22年のプレシーズンはコロナの影響を見ながら、選手の奥さんや子どもに会ったりすることができました。ファンのみなさんとも、少しずつ交流できています。それはとても素晴らしいことですね」
 選手同士のつながりは、ピッチ上のパフォーマンスに直結する。6シーズンぶりのトップ4入りを果たした昨シーズンを受けて、トムは手ごたえをつかんでいる。
「昨シーズンのスタート時点で、果たして何人の選手がトップ4に入れると考えていたでしょう。ああやって経験をすることで、自分たちもこのレベルでできると信じることができる。どんな相手にも勝てると信じることで、初めて自分たちの能力をフルに使って大きな舞台にチャレンジできる。学ぶことの多かったシーズンで、その経験は今後に生かされると思います」

 

 オールブラックスの10番を背負った経験を持つトムに、期待の若手バックスを選んでもらった。33歳は質問を聞き終える前に、ふたりの名前をあげた。
「ユウト(森勇登)とタクロウ(松永拓朗)は、日本代表でプレーするだけのポテンシャルがあると感じています。取り組む姿勢も素晴らしい。ハヤタ(中尾隼太)もトップレベルのポテンシャルを持っているので、日本代表に選ばれてほしいなと思っていたんです。そうしたら、22年にピックアップされましたね。チームメイトとして、誇らしい気持ちになりましたよ」
 インタビューに応じるトムは、ピッチ上でのプレー同様にスマートだ。質問を的確にさばいていき、ときには先回りして答えてくれる。知性を感じさせるタイプで、折り目正しいプライベートが連想されるが、「ラグビーを忘れて楽しむこともありますよ」と言う。
「適切なタイミングがあれば、楽しむことは重要です」
 チームが何か大きなものを成し遂げることは、「適切なタイミング」と言えるはずだ。スマートなトムが感情を思い切り解放させる瞬間を、ぜひとも見てみたいものだ。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

※この物語りで今シーズンの選手の「物語り」の掲載は終了となります


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4/21(金)埼玉ワイルドナイツ戦(@秩父宮ラグビー場)
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