【物語りVol.86】ボールがつながり、心が通う。

■垣根のない交流がルーパスカップをいろどる

 ラグビーの本場さながらの光景が、広がっていました。
 10月14日、東芝ブレイブルーパス東京は23―24プレシーズンマッチを開催しました。三重ホンダヒートとの試合は12時キックオフですが、東芝府中天然芝グラウンドと人工芝グラウンドは、午前中から熱気で溢れています。4回目となる子どもたちの大会『ルーパスカップ』が開催されるからです。
 ルーパスカップは「東芝ブレイブルーパス東京から世界へ、予測できない未来を力強く生きる人材の育成」を理念として、5つの独自ルールで行なわれます。独自ルールはラグビー憲章で示される5つのコアバリューに基づいています。
 試合に臨む子どもたちは、作戦やプレーの選択を自分たちで話し合って決めていきます。最初は遠慮がちに、時間が経つごとに積極的に、子どもたちは自分の意見を交換していました。コアバリューの「尊重」にあたるものです。
「作戦どうする?」
「一か所に固まらないようにしようよ」
「密集しないようにね」
「あと、サポートを速く」
「声も出していこう」
 試合が始まると、コーチや父兄からは「ナイストライ!」といった声があがります。思い切ったチャレンジに、拍手があがります。ふたつ目の独自ルール「大人は子どもたちのプレーを褒める」というものです。コアバリューの「情熱」にあたるものです。
 試合を終えると、両チームの子どもたちが集まります。試合前にどんな準備をしたのか、どんな作戦を用意したのか、相手のプレーはどうだったのか、といったことについて意見を出し合います。「感想戦」と呼ばれるこの時間は、コアバリューの「品位」に基づきます。
 感想戦では進行役のマッチファシリテーターに促されて、子どもたちが発言をしていきます。「ミスがあってもカバーできるように動くことを目標にしていて、できたところも、できなかったところもありました」との意見に対して、相手チームが「そっちのチームはパスをつなぐ意識が高かったし、足が速かったです」と答えます。双方向のやり取りが行なわれていました。
 ルーパスカップは天然芝の一部も使われていますが、そのすぐそばには東芝ブレイブルーパス東京の選手たちが姿を見せています。少しずつ身体をほぐしながら、子どもたちのプレーに微笑んだり、目で追いかけたりする選手もいました。
 トッド・ブラックアダーHCは、ルーパスカップの会場へ足を運んでいました。子どもたちやその父兄からサインや握手を求められると、笑顔で応じます。垣根のない温もりが、チームとファンの距離が近いことを感じさせます。

■子どもたちが見せる「しなやかさ」

 園児から小学4年生までのおよそ400人が参加したルーパスカップでは、対戦した相手とチームを組むミックス戦も行なわれます。知らない子どもと同じチームになり、ポジションを決め、作戦を練ったりすることは、コアバリューの「結束」を意味します。
 ミックス戦を前にしたあるチームは、輪になって座りながらこんな話し合いをしていました。
「ポジションを決めよう」
「オレ、ウイングやりたい」
「ちょっと待って。FWから決めようよ」
「はい、やりたい」(と言って、ふたりが手をあげました)
「じゃ、それで決まり。BKは?」
「オレ、ウイングやりたい」
「みんな、それでいい?」
 全員が手をあげて、話し合って、譲り合って、ポジションが決まっていきました。すると、「じゃあ、試合でさ」と、チームの戦いかたについて話し合いが行なわれていきます。ここまで、コーチは一度も口をはさんでいません。子どもたちを促してもいません。
 慣れない環境にも適応していく子どもたちのしなやかさは、目を見張るものがありました。
 ミックス戦が活発に繰り広げられ、ルーパスカップは終わりに近づきます。最後にコアバリューの「規律」を示すものとして、参加者全員で「挨拶とルーパス締め」を行ないました。
 子どもたちとその父兄たちは、人工芝から天然芝へ移動します。東芝ブレイブルーパス東京のプレシーズンマッチのキックオフが、およそ30分後に迫っています。
 天然芝グラウンドのメイン側裏には、東芝ブレイブルーパス東京のオフィシャルグッズショップ、ファンクラブ受付のテント、カンタベリーショップが並んでいます。オフィシャルグッズショップとファンクラブ受付のテントでは、この日の試合に出場しない選手が観客を迎えます。
 さらにはケバブのキッチンカーが出店し、その隣ではおにぎりやおつまみ、缶ビールが販売されています。お馴染みのリーチマイケル選手のコーヒースタンドも、美味しそうな香りでお客さんを惹きつけます。また、クラブのオフシャルサプライヤーである株式会社明治から、来場者にプレゼントが用意されていました。

■W杯で活躍した3選手があいさつを

 12時にキックオフされた試合には、ルーパスカップに参加した子どもたちとその父兄はもちろん、多くの来場者が集まりました。ハーフタイムにW杯日本代表のLOワーナー・ディアンズ選手、NO8リーチマイケル選手、WTBジョネ・ナイカブラ選手がピッチ内であいさつをしました。思いがけないプレゼントに、来場者からは大きな歓声があがります。
 最初にマイクを向けられたリーチマイケル選手は、「W杯での応援ありがとうございました。W杯での経験を東芝ブレイブルーパス東京で生かして、勝てるように頑張っていきます」と話しました。
 続いてワーナー・ディアンズ選手が、「すごくいい経験になりました。これを生かして、できる限りいいプレーをしていきます」と語ります。ジョネ・ナイカブラ選手も日本語で、「みなさん、応援ありがとうございました」と感謝を言葉にしました。
 49対31の勝利を飾った試合後には、ファンクラブ会員とピッチ内で交流しました。選手とスタッフは、時間の許す限り写真撮影やサインに応じていました。
 週末のグラウンドに子どもから大人までが集まり、試合をして、食べて、飲んで、真剣に応援もして、家族や友人と過ごす時間は、ラグビーの本場オーストラリアやニュージーランドでは日常的な風景です。ルーパスカップからプレシーズンマッチまでがひとつのプログラムとなり、ボールがつながれ、心が通っていきました。温もりに満ちた時間をともに過ごすことで、東芝ブレイブルーパス東京とチームに関わる人たちは、一体感を高めていくのでしょう。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

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