【物語りVol.87】『BE THE ONE』のスローガンのもとで

■「試金石」のシーズンとの自覚

 11月13日(月)、東芝ブレイブルーパス東京は定例記者会見を開きました。リーグワンはもちろん国内の各種スポーツを広く見渡しても、定例で会見を行なっているクラブは希少です。「世界有数のユニークなラグビークラブ」を目ざす、ブレイブルーパスならではと言えるものでしょう。今回も様々な情報が発信されました。
 会見は対面とオンラインのハイブリッドで進められます。最初に荒岡義和代表取締役社長から、2023―24シーズン開幕へ向けての取り組みに関する説明がありました。
「W杯イヤーということで、今シーズンは非常に大事になると感じています。W杯があれだけ注目されたなかで、リーグワンをどれだけ認知していただけるか。昨シーズンまでの課題で言うと、ゲームをやっていることを知らない方がいらっしゃいました。どうやって周知していくのかを、クラブ内で考えてきました」
 そのひとつの答えが、東京メトロポリタンテレビジョン株式会社(TOKYO MX)とのメディアパートナシップ締結です。10月31日付でホームページ上にて発表されていますが、荒岡社長から改めて説明がありました。
「東京をホストエリアとする私どもブレイブルーパス、東京サントリーサンゴリアス様、リコーブラックラムズ東京様とともに、地元のテレビ局であるTOKYO MX様と連携できないだろうかと協議を重ねてきました。その結果、3チームのホストゲームを放映していただくことになりました。私どもはTOKYO MXさんの企業ロゴを、チームジャージに掲出させていただきます。この連携により、リーグワンを盛り上げていきます」
 ふたつ目は「ファン愛称募集キャンペーン」についてです。こちらは10月13日付けでホームページ上にて告知され、11月9日に募集が締め切られました。
「昨シーズンは『BRAVER』としてファンの皆さんにお声がけをさせていただきました。私どもには『猛勇狼士』というチームスピリットがあり、このあとトッド・ブラックアダーHCがチームスローガンのお話をさせていただきます。それらと合わせていくと、ファン愛称もファンの皆さんに決めていただいたほうが、より近づいてファミリーになれるのではと考えました」
 応募総数は700件に迫りました。12月9日のリーグワン2023-24開幕節、静岡ブルーレヴズとのホストゲームにて、発表セレモニーと考案者への記念品贈呈が予定されています。
 三つ目は事業会社としての業績目標についてです。
「昨シーズンは5億円の売上げを目標としましたが、4.1億円でした。まずは昨シーズン立てた目標に届きたいということで、今シーズンも5億円としています。6億円、7億円という思いはありますが、まず5億円を達成したいと考えます」
 事業会社として足元を固めるために、昨シーズンは東芝を除くスポンサー収入の目標を2億円以上に設定しました。2億円を達成したことを受けて、今シーズンは2.5億円を目ざします。「協賛していただく会社も100社相当に達すると見込んでいます」と荒岡社長は手ごたえを口にしました。
 ホストゲームの1試合平均入場者数は、8000人を目標とします。
「昨シーズンも同じ目標を立てましたが、6000人を若干下回る数字でした。1シーズン遅れですが、これを達成したい。カードによって1万2千人(を動員する)プロジェクトをやりましたが、これも盛況なカードでは1万5千人ぐらいまで持っていきたい、というのが我々の気持ちです」
 昨シーズンのホストゲームでは、ピッチ上の音や声をスタンドに届ける「リアル・グラウンド・サラウンドシステム」や、試合後に選手全員がファンクラブ有料会員をお見送りするBRAVERファミリーロードなどが好評を博しました。荒岡社長からは「そういったものをどうやって実施していくのかも、現在検討しているところです」との説明がありました。
 ファンクラブは昨シーズンの7400人に対して、今会見開催時点で7000人に迫っています。昨シーズンを上回る数字が、現実的となっています。
 荒岡社長は表情を引き締めて語ります。
「W杯イヤーということで手ごたえを感じていますし、逆にこの年にきちんと成果を出さないといけないと思っています。ブレイブルーパスだけでなくリーグワンにとっても大事な試金石になると思います。みなさんのご支援をいただいて、素晴らしいシーズンにしたいと思います」
 事業会社としての目標を明確にすることは、チーム内にもクラブ内にも適切な緊張感を生み出します。そして言うまでもなく、成長につながっていきます。

■「イチバン」になるために

 続いて、トッド・ブラックアダーHCがマイクを握ります。
「オハヨウゴザイマス」と日本語であいさつをし、そこからは英語で語っていきます。
「大きなチャレンジを目の前にしています。昨シーズンは期待していたとおりにはいかず、ものすごく悔しい思いで終えました。そこから今日まで、多くの課題に取り組んできました。必要な変化をしっかりと加えて“イチバン”にならなければいけない。適切なプラン、適切なプロセスを構築し、それに基づいて動いてきました。次のステップは、必要な行動の変化を体現できるリーダーを選ぶことでした」
 チーム全員がリスペクトし、その背中を見てついていきたいと思う存在──トッドHCの思い描くリーダー像に、NO.8リーチ マイケル選手が重なりました。
「彼はチーム内でもチーム愛を表現してくれる。心の底からチームを愛している。背中で例を見せて引っ張ってくれます」
 リーチ選手は13年シーズン以来のキャプテン就任となります。トッドHCは時期が到来したものとの認識を明かしました。
「チームが彼のようなリーダーを必要としているタイミングで、リーチのキャリアがそういうフェーズにきたのを嬉しく思います」
 バイスキャプテンには、HO原田衛選手が指名されました。
「リーダーシップのポテンシャルを秘めた若い選手です。彼も背中で引っ張ることができます。チームとして変化が必要と考えたときに、一番変化をもたらせるふたり、リーダーシップのあるふたりを選びました」
 続いて、今シーズンのチームスローガンが発表されました。
 それが『BE THE ONE』です。
「チーム内のモチベーションの基盤になるものです。日本語にすると『そのひとりに自分がなれ』ということで、色々な意味が含まれています」とトッドHCは語ります。その一部が、会見で紹介されました。
 誰かにインスピレーションを与えるひとりになろう。
 自分の才能を表現するひとりになろう。
 自分のスキルを発揮するひとりになろう。
 ラグビーにおいて、タックルでも、ボールキャリーでも、トライでも、どんな局面でも自分を出せる存在になっていこう。
 チーム内で自分の役割を遂行できるひとりになろう。
 チームのために、やらなければならないことをやりきろう。
 チームの枠組みとしては、ひとつのチームになろう、チームとしてまとまろう、ということになります。そのために全員が適切なマインドセットを持ち、それぞれの役割を遂行していきます。
 過日のW杯で準優勝したオールブラックスのSOリッチー・モウンガ選手、FLシャノン・フリゼル選手に触れました。「ふたりに対しては、まずは新しい環境に、チームのやりかたに慣れてもらいます」とし、トッドHCは11月25日のプレシーズンマッチ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦)でのメンバー入りを示唆しました。
 彼らに期待することを問われると、「私からの期待は、選手によって変わるものではありません」と切り出し、次のように続けました。
「毎週、毎週、ベストを出すことを期待します。とくに彼らふたりには、チームを引っ張ってほしい。まずはオンフィールドの行動で引っ張ってほしい。世界でもベストな選手なので、なぜベストまで上り詰められたのか、なぜベストでいられるのか、を見せてほしい。チームメイトに対して、いま持っているいい習慣をどうやって身につけたのか、どうやって準備するのか、どうやってリカバリーするのか、どうやってレビューするのか、ということを含めて、いい影響を与えてほしいと思います」
 今会見の時点で、12月9日のリーグワン開幕まで3週間強でした。トッドHCは「リッチーとシャノンが合流して、スコッド全員が揃うことを嬉しく思います。長いプレシーズンにハードワークを続けてきて、やっと試合に臨める準備ができました」と笑みを浮かべました。
「リーグワンの他チームも人材を確保していて、毎年、毎年、レベルが上がっている。だからこそ、ものすごくエキサイティングなチャレンジです。開幕戦のヤマハ戦に照準を合わせてきましたので、しっかり準備ができた状態で臨みたいと思っています」

■リーチ選手が10年ぶりにキャプテン就任!

 トッドHCが会見場を後にすると、W杯に出場した3選手が登壇します。最初にW杯を振り返ります。
リーチ選手は、「すごく悔しい結果で、達成感がまったく生まれなかった。ここから世界の壁を乗り越えるために、まずは個人を強くして、リーグワンで活躍したいと思っています」と話しました。
 WTBジョネ・ナイカブラ選手は、「いい経験でした。結果は残念ですけど、いいことも色々ありました。リーグワンでは頑張ります」と、日本語で自身の思いを伝えました。
L Oワーナー・ディアンズ選手も、悔しさを糧にしていきます。
「なかなか自分が期待したレベルではできなくて、ちょっと残念です。結果も残念で。悔しい思いを抱えているんですけど、W杯を経験して良かったと思います。リーグワンに向けて自分に足りないところとか、もっと成長しなきゃいけないところを見つけて、いいパフォーマンスを出せるように頑張ります」
 リーグワンについて改めて問われると、リーチ選手はW杯イヤーならでの変化に触れました。ブレイブルーパス入りしたモウンガ選手とフリゼル選手だけでなく、今シーズンは対戦相手にも数多くのW杯プレーヤーが在籍しています。
「海外からスーパースターがたくさん来るので、楽しみにしています。トップレベルの選手とぶつかって、タックルして、自分も成長したいと思います」
 ナイカブラ選手はモウンガ選手、フリゼル選手への期待を口にします。
「ふたりとやるのが、すごく楽しみです。いいシーズンにしたい」
 その話を聞いて、ディアンズ選手が頷きます。同じ思いを抱いているようです。
「新しく入ってくるふたりの存在が、すごく楽しみです。アタッキングラグビーが増えると思うので、すごく楽しいシーズンになると思います」
 リーチ選手には、キャプテン就任についての質問がありました。最初に打診をされた際は「速攻で断りました」といい、プレシーズンにキャプテンを任されていた原田選手を推薦したそうです。しかし、ある思いがリーチ選手を衝き動かしました。
「ただただ、勝ちたいという思いが一番強くて。キャプテンになって、自分のなかでの責任感が変わってきて。プレーに一貫性を持って、東芝らしくプレーしたい。喋る人はたくさんいるので、プレーで見せていきたいです。シンプルにパフォーマンス重視で考えています」
 今シーズンのスローガンである『BE THE ONE』についても質問がありました。自身はどのように受け止めているかを問われると、ディアンズ選手は「チームのために自分のポジションでベストに、イチバンになることです」と答えました。ナイカブラ選手は「信用されるひとりになる。ナンバー1になる」と、シンプルな言葉に力を込めました。リーチ選手はトディことトッドHCが良く使うという単語を持ち出します。
「インスパイアという言葉をトディが良く使うのですが、多くの人をインスパイアできる選手になることです」
『BE THE ONE』のスローガンのもとで、選手、スタッフ、ファンが一体となっていく。楽しみなシーズンの幕開けが、いよいよ近づいてきました。


(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

ジョネ・ナイカブラ 選手
リーチマイケル 選手
ワーナー・ディアンズ 選手

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