【物語りVol.92】「特別なもの」へ向かって

■現実から目を逸らさずスポーツビジネスを育む

 1月22日、東芝ブレイブルーパス東京は定例記者会見を開きました。この日は荒岡義和代表取締役社長とトッド・ブラックアダーHCが登壇し、対面とオンラインのハイブリッドで様々な情報を発信し、参加したメディアの質問に答えていきました。
 NTTジャパンラグビーリーグワン2023-24 ディビジョン1は1月14日までに第5節を終え、20日に第6節の一部試合が行なわれました。東芝ブレイブルーパス東京は5節まで消化しており、無傷の5連勝を飾っています。
 荒岡社長もマイクを握った冒頭に、好調なチームに言及しました。
「ここ2シーズンは勝ったり負けたりしながら、後半に追い上げていくパターンでした。今シーズンは違った展開で、また別の楽しみがありそうです。チーム状態を維持して、頑張っていければと思います」
 ここからは、ホストゲーム3試合を終えた事業評価です。事業収入の柱となる集客について説明がありました。
「5節までのリーグワンの平均入場者は10325人です。昨シーズンのリーグワン平均の180パーセントになります。ここ数年では非常に多く入っています。私どもの試合は、ホストゲーム3試合の平均入場者数が9792人です。昨シーズンのホストゲームの160パーセント以上になります」
試合ごとの数字を見ると、12月9日の開幕節は11553人、1月7日の第4節は10456人、同14日の第5節は7367人でした。今シーズンは1試合平均入場者数の目標を8000人に設定しており、チーム同様に好調な滑り出しと言えます。
この数字について荒岡社長は、「リーグワンに比べると昨シーズンに比べての上がりかたはちょっと低いですが」としつつ、「コロナ後の社会活動の規制緩和で行動変容がされていること。ラグビーW杯直後のリーグ戦で、しかもW杯で活躍したスター選手がたくさん来ていること。私どものチームにもリッチー・モウンガとシャノン・フリゼルが入っていますので、そういった効果はあるのかな」と分析しました。
 同時に、8000人の内訳に踏み込んでいきます。
「シビアなところで言うと、昨シーズンの1試合平均入場者数の6000人弱では、有償の入場者数が90パーセント近くを占めていました。今シーズンはおおむね60パーセントぐらいです。これには理由がありまして、昨シーズンは有償化、つまりお金を払って観に来てもらうことにこだわりました。企業スポーツからプロの興行に変わりましたので、お金を払って観に来ていただく。有償化が根づいてほしいという願いがあり、それによってチームはプレーに緊張感を持つ。フロント側は興行としてサービスに工夫をする。我々自身がレベルを上げていくためにも、有償化にこだわりました」
 有償化に伴うサービスの充実として、新たな取り組みを行ない、グッズを充実させるなどしました。ユニークな視点に基づく空間作りは対外的にも好評を博しましたが、課題も見えてきました。
 荒岡社長が続けます。
「昨シーズンを経て、まだまだマーケットとして大きくしていく必要があると強く感じました。W杯後なので将来お金を払って来てくれる人を増やしたい、W杯でラグビーに関心を持った方にもっと来てもらいたい。掘り起こしのために招待を増やしたことで、有償で来ていただく方の実数が下がりました。そのなかで有償の平均入場者数を昨シーズンと比較すると、10パーセント増になります」
1試合平均の入場者数は昨シーズン比で60パーセント増ですが、有償では10パーセント増ということになります。荒岡社長は「総入場数だけでなく、有償での入場者数を注視していきます」とし、「序盤戦に招待で来ていただいた方が、リピーターになってくれるのか」をポイントのひとつにあげました。
事業会社として業績を上げていくためにも、荒岡社長はシビアな数字も公表しているのでしょう。「W杯は飛び道具ではなく、これを契機にスポーツビジネスを育んでいきます」と、決意を新たにしていました。

■ファンクラブ会員は1万人超に

 いずれにしても、1試合平均の入場者数は増えています。それに伴って、オフィシャルグッズの売り上げも伸びています。
「過去2シーズンに比べて好調でして、5節終了時点で昨シーズンの売り上げに等しいぐらい」とのことです。今シーズンからデザインの変わったユニフォームのレプリカ、さらにはスター選手のタオルの販売が好調です。荒岡社長はグッズ販売の波及効果にも言及しました。
「グッズは宣伝材料になりますので、それらを持って街を歩いてもらうことで、東芝ブレイブルーパス東京が露出する機会が増えます。とてもありがたいです」
 ファンクラブの会員数も伸びています。昨シーズンの7400人に対して、すでに1万人を超えています(無料の会員を含む)。「我々に興味を持っていただいている方々、応援しようという方々が増えているのかなと思います」と、荒岡社長は自身の肌触りを明かしました。
 また、事業会社としての足場固めも進んでいます。今シーズンは母体企業以外のスポンサー収入の目標を2億5千万円に設定していますが、「すでに超えることができました」との報告がありました。協賛企業も100社前後から120社まで増えています。クラブとしての地道な営業活動が、着実に実を結んでいるのでしょう。
 次のホストゲームは、2月24日に実施される第7節の横浜キヤノンイーグルス戦となります。今シーズンは東京メトロポリタンテレビジョン株式会社とのメディアパートナーシップ締結により、開幕節と第5節がTOKYO MXにて放映されました。
 荒岡社長は「テレビ放映によって、横浜E戦以降にどれぐらいの広がりが出てくるのか」にも、注目していると話しました。東芝ブレイブルーパス東京は今後もホストゲームをより快適に、より楽しく観戦していただけるように、様々な施策を検討していきます。

■フリゼルとモウンガは「素晴らしいチームマン」

 荒岡社長による事業評価に続いて、トッドHCがマイクを持ちます。最初にここまでの5試合を総括します。
「素晴らしいスタートがきれました。一番気に入っているのは、どれだけ成長しているのかを、見せられていることです。素晴らしいラグビーができていますし、たくさんのお客さんが会場に足を運んでくれているのは嬉しいことです、特別なものへ向かって、積み上げられていると感じています」
 そういってトッドHCは、「ここまでの5連勝を本当に誇りに思います」と語り、その要因に「レジリエンス」をあげました。機会のあるごとに持ち出している単語で、ここでは「逆境を跳ね返す力」を意味します。さらには「アダプト」もあげました。こちらは、「色々な状況に順応できている」ことの裏づけとして用いました。
 トッドHC以下スタッフは、KPIを設けています。ディフェンス、アタックの評価指標を設定することで、「自分たちのターゲットをしっかりと定めている」のです。
「メインのメッセージとして、我々のラグビーはすごく成長できていますし、まだまだ成長できるところがあります。多くの部分はすごく順調に進んでいますが、大きな課題も存在しています。たとえば、ラインアウトからのアタックとテリトリー。ラインアウトは勝てればそこからアタックして、取り切ることができています。当然ながら毎試合の対戦相手は対策をしてきますので、自分たちにとっては大きなチャレンジになります。スクラムも、もっともっと良くしていかないといけない。モールドライブからのトライは、今シーズンここまでありません」
 開幕ダッシュを果たしている要因として、FLシャノン・フリゼル選手とSOリッチー・モウンガ選手の存在がクローズアップされます。トッドHCは「色々な場面でその質問を受けます」と切り出し、自身のHC就任後の「積み上げ」に触れました。
「個人的には、ここまでの5年間でしっかりと基礎を積み上げてきたことが意味を持っていると思います。チームが基礎を持っていたので、彼らはベストなラグビーでプレーできる状態でした。彼らふたりがチームを担いで引っ張っていく、ということをしなくてもいいのです」
 そのうえで、ふたりの存在価値を評価します。
「彼らがもたらしているものとして、豊富な経験があげられます。それに知識。さらには、トレーニングに100パーセントで準備する良い習慣を持っています。それらは本当に重要な部分で、チームに自信をもたらしてくれます。彼らのキャラクターはこのチームに最高にフィットするものです。ハードワークをして、謙虚な姿勢がある。ふたりとも素晴らしいチームマンです」

リッチー・モウンガ
シャノン・フリゼル

■「ラグビー人生のなかでも最高のラグビーを」

 さらには今シーズンからキャプテンに就任したNO.8リーチ マイケル選手、副キャプテンのHO原田衛選手の働きを讃えました。
「リーチのリーダーシップは素晴らしい。彼は勝ちたいという強い気持ちを持っているだけでなく、そのための文化をチームに植え付けるという強い意志を持って努力しています。彼をサポートする原田も、貪欲に学ぼうとする姿勢が素晴らしいですね」
 チームスローガンも、好調なチームの支えになっているのでしょうか。トッドHCは穏やかな表情で話します。
「水面下で浸透しているのかな、と思います。映像とか画像にその意味を散りばめて、徐々に浸透する工夫をしています。当然、『ひとつになる』という意味もあり、それによってまとまりも強くなります。このスローガンがうまく機能していればいいなと願っています」
 チームの目標は、言うまでもなく目前の試合で勝利をつかむことです。そのうえで、トッドHCは選手たちにラグビーの楽しみを噛み締めてもらい、チームに関わる人々を含めた一体感を作り上げたい、と考えています。
「選手たちには彼ら自身がワクワクできる、そんなラグビーをしてもらいたいのです。彼らのラグビー人生のなかでも、最高のラグビーを経験してもらいたい。そして、観客のみなさんに自分たちのワクワクしたラグビーを楽しんでもらいたい。それによって観客のみなさんに、私たちのラグビーにどんどん興味を持ってもらうことができるのかな、と思うのです」
 ラグビーの魅力を届ける事業会社として、勝利を捧げるチームとして。東芝ブレイブルーパス東京は唯一無二のユニークなクラブとして、これからも忘れ得ぬドラマを描出していきます。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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