【物語りVol.93】LO アニセ サムエラ

 

 2008年に来日した。日野自動車レッドドルフィンズ(現在の日野レッドドルフィンズ)で日本ラグビーに触れ、16年からキヤノンイーグルス(現在の横浜キヤノンイーグルス)へ所属先を変える。16年から18年にかけては日本代表に招集され、12キャップを獲得した。
 22年は静岡ブルーレヴズでプレーした。そして23年に東芝ブレイブルーパス東京に加入し、来日16年目のシーズンを過ごしている。
「生まれ故郷のフィジーから来日した当初は、まさかこんなに長く日本でプレーすることになるとは想像もしていませんでした」
 37歳になったアニセ・サムエラは、柔和な顔つきで話す。198センチ、118キロの巨体はド迫力だが、ピッチを離れた彼はとても穏やかな印象だ。
「日本の文化がとてもいいなと感じていて、自分自身もその文化を吸収して、日本人の生活スタイルに順応していきました。たくさんの外国人選手が来日してきましたが、自分の場合は家族が一緒にいて、妻や家族もこの国に馴染んでくれたことが大きいですね」
 来日当初に苦労した納豆は、「大好物のひとつ」になっている。常夏のフィジーでは経験できない冬の寒さに、身体を縮め込めることもなくなった。「冬でもショートパンツで過ごしていますよ」と笑う。
 かくも長いキャリアを日本で築いた理由は、もちろんピッチ内にもある。フィジカルを生かした重量感のあるプレーに加えて、日々の練習に真摯に取り組む姿勢が、チームに好影響をもたらしてきた。
「私が心掛けているのは、自分自身をフォーカスすることです。自分がチームにどうやって貢献できるか、具体的には自分のアクションがどのような助けになるのか。求められているものは何なのかをしっかりと理解して、チームに尽くすことを大切にしてきました。そのためにも、コーチ陣からフィードバックをもらうようにしています。年齢的にはベテランになりましたが、日々学ぶことがあります。オープンマインドでコーチだけでなく若い選手からも、他のベテラン選手からも学んでいます」

 年齢を重ねていくなかで、スタメンよりも途中出場が増えている。スタートからピッチに立ちたい、1分でも長くプレーしたいという原初的欲求が胸を叩くが、モチベーションが上下することはない。
「試合に出られる23人に選ばれても、選ばれてなくも、チームに対して自分ができる最善を尽くす。チームファーストのマインドでいますね」
 フィジカルコンディションの維持はどうだろう。20代や30代前半とは違う身体の声に、耳を傾ける場面があるはずだ。
「たとえばパワーやスピードについて、20代とは違うところがあるかもしれません。そのなかで、リカバリーやリハビリを大事にして、小さい筋肉の強化に取り組んだりしています。メンタルの準備が、さらに重要になっていると思います」
 フィジカルとメンタルは、切り離せるものではない。互いに支え合う関係だ。だからこそ、心を整える重要性を説く。
「フィジカル的にはこれ以上無理だという状態でも、ポジティブなマインドを保つことであと少し、もう少し頑張ることができると思うんです。モチベーションをポジティブに保つためにも、前向きな気持ちでいることは大切です」

 東芝ブレイブルーパス東京とは、トップリーグ当時から何度となく対戦してきた。「つねにハードな相手でした」と切り出し、すぐに「簡単な試合はひとつもありませんでした」と言葉をつなぐ。激しいコリジョンの記憶が、鮮やかによみがえっているようだ。
「何と言ってもフィジカルに特徴があり、セットピースが強い。試合終了の笛が鳴るまでハードにプレーするチームなので、決して気を抜くことができませんでした」
 『猛勇狼士』をチームスピリットとする東芝ブレイブルーパス東京の一員となった現在は、嬉しい気づきがある。1948年の創部から育まれてきたチームカルチャーに、加入早々から魅せられているのだ。
「チームカルチャーは印象的ですね。自分だけでなく家族に対しても、チームに関わる誰もがウェルカムな姿勢で迎えてくれました。とても溶け込みやすかったですね。それは、チームのために戦うモチベーションとなっていますし、このチームのためにフィールドで戦えることがとても嬉しいのです」
 37歳という年齢を考えると、キャリアが終盤に差しかかっているのは間違いないのだろう。サムエラは小さく頷きながら、口もとに微笑みを灯した。
「私にとってラグビーは、とてもたくさんの意味を持っています。自分の人生を楽しめるもののひとつで、ラグビーを通じて色々な人に会うことができ、友情が芽生え、友だちが家族のようになる。フィールド上ではガチガチと闘いますが、試合が終われば握手をして、一緒に呑んだりもして、笑い合ったりできる。ラグビーで生計を立てているわけですが、職業とかスポーツとかいう枠を超えた意味があります」
 ラグビーへの取り組みは誠実で、純粋で、偽りがない。一切の雑念を洗い流して向き合い、一日、一日を大切にする。
「何歳までやりたいかと聞かれることがありますが、自分の身体の状態もありますので、その質問に答えるのは難しいですね。1年ずつチームに尽くすことしか考えていなくて、そのために目の前の1試合を大切に、毎日のトレーニングでできるだけのことをやっています」

 トレーニングを終えて自宅に帰れば、愛する妻とふたりの息子がいる。サムエラの表情が緩む。優しさが広がっていく。
「妻と子どもたちは、私のために多くの犠牲を払ってくれています。チームが変われば生活拠点も変わるので、子どもたちも大変だと思うんです。妻は私の“セカンドコーチ”と言っていい存在です(笑)」
 家族からの愛情を全身で感じ、ありったけの愛情を家族へ注いでいく限り、サムエラのモチベーションは揺らぐことも、行き先を失うこともないだろう。密集へ飛び込んでいく彼は、タックルを突き刺す彼は、家族の支えをはっきりと感じている。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【試合情報】
東芝ブレイブルーパス東京は、NTTリーグワン2023-24 Division1で開幕戦から5連勝中!現在リーグ内で2位につけています。
次戦は1/27(土)、豊田スタジアムでトヨタヴェルブリッツとの対決となります。
リッチー・モウンガ(BL東京)とアーロン・スミス(トヨタV)のオールブラックス対決も必見です!
ビジターゲームとなりますが、皆様のご声援をよろしくお願いいたします。

1月27日(土)トヨタヴェルブリッツ戦(@豊田スタジアム)
※当日は会場にてグッズ販売を行います

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