【物語りVol.98】水間 良武 アシスタントFWコーチ

 2023―24シーズンの開幕直前に、水間良武は東芝ブレイブルーパス東京のスタッフ入りした。
「11月ぐらいに連絡をいただきました。トッド・ブラックアダーHCが先のW杯を見て、勝つチームはFWが重要、ラインアウト、スクラム、セットピースが大事やと。東芝ブレイブルーパス東京はアタックがいいので、起点となる部分を強化したい、そうしたら自分たちはもっと強くなる、というお話を聞きまして、ぜひお願いしますとお答えしました」
 フッカーとしてプレーした現役時代は、ケガとの戦いだった。
 高校ラグビーの名門・大阪工業大学高校(現在の常翔学園高校)で主将を務め、花園で全国の頂点に立った。高校日本代表でも主将を任され、同志社大学でも主将に指名される。関西学生代表でも主将の重責を果たした。
「大学では腰を痛めたこともあり、ほとんどラグビーができませんでした。4年時はキャプテンだったのですが、3月に足首を脱臼骨折してしまい、11月ぐらいまで復帰できませんでした」
 同志社大学卒業後は、鐘淵化学の一員となった。3年目にはプロ契約を結び、翌年から三洋電機ワイルドナイツ(現在の埼玉パナソニックワイルドナイツ)へ加入する。
「社会人でもケガが多かったですね。コーチからすると、使いにくい選手だったと思います。三洋での1年目は試合に出られたのですけど、2年目から日本代表になる山本貢が入ってきて、そのあとに堀江翔太も入ってきて、出番がなくなっていきました」
 09年に現役を退くと、チームに残ってアシスタントコーチとなる。18年までワイルドナイツのスタッフに名を連ねながら、日本代表のスポットコーチや世界選抜のFWコーチなどを経験した。
「ワイルドナイツが強くなっていくなかで選手として関わり、コーチになってからも強くなっていくチーム、強さを維持するチームのなかにいることができました。最後の年はトップリーグで6位に終わったので、前年まで結果を残していたチームが上位に食い込めない、というシーズンも経験しました」
 ワイルドナイツを離れてからは、神戸製鋼コベルコスティーラーズ(現在のコベルコ神戸スティーラーズ)でディベロップメントコーチの職に就き、U20日本代表監督を務めた。21年からは花園近鉄ライナーズのヘッドコーチとなり、リーグワンのディビジョン2からディビジョン1へ昇格させた。
「神戸製鋼には、ダン・カーターとともに優勝した翌年から関わらせてもらいました。彼らの強さに触れることができましたし、望んでいた結果を残せないシーズンも経験しました」

 結果を残していくチームには、共通点を見つけることができる。
「一番はファミリーのような関係、存在でいられるか。選手同士、スタッフ同士、選手とスタッフが、何でも言い合って、痛いことも『家族のためなら』といとわない。自分がヘッドコーチだったU20日本代表では、そういう関係を築けました。結果は出なかったですが、近鉄もいいチームでした」
 ならば、結果を残せないチームにも共通点はあるのだろうか。水間は迷わずに答える。
「トップが優柔不断だったり、選手に任せ過ぎたりすることですね。選手もスタッフも、正しい人材を正しい場所へ配置することが大事です。得意分野とは違うところへ配置すると、その人の能力が発揮されないので、組織としてうまくいかなくなってしまいます。レストランで言えば、接客が得意な人にはキッチンではなくホールで働いてもらうべきです。そこで重要なのが、自分はこういうことが得意ですと言える関係、環境です。私自身、良いことは良い、良くないことは良くない、とはっきり言います。実績のある外国人選手でも、日本代表選手でも、良くないことはストレートに伝えます」
 選手と真正面から向き合い、率直に意見する指導スタイルは、ワイルドナイツのコーチだった当時をきっかけとする。トニー・ブラウンに言われたあるひと言がきっかけだった。日本代表のコーチも務めた愛称ブラウニーとは、選手、コーチとしてともに汗を流した。
「指導者になって3年目ぐらいだったかな、ブラウニーからフィードバックをもらったのです。コーチとして良くなるために必要なものを聞いたら、『accountability(アカウンタビリティ、説明責任)だ』と言われました。それまでの僕は、ちょっとあいまいにしている部分、見過ごしている部分が確かにあったな、と。そこからは、選手と口げんかになるぐらい言い合って、他の選手が止めに入るようなこともありました。自分が若かった、というのもあると思うのですが」

 東芝ブレイブルーパス東京に合流して、すぐに感じたことがある。
「ホントに温かいですね。スタッフみんなが温かく、なおかつプロフェッショナルな集団です。それは、言い合える厳しさがあるという意味です。選手も、コーチングスタッフも、他のスタッフも、健全で正直な話し合いができているので、非常にいいグループだと思います」
 2023―24シーズンのジャパンラグビーリーグワンは、24年5月上旬にリーグ戦の最終節を迎え、同18日から上位4チームによるプレーオフトーナメントが行なわれる。決勝は26日だ。
「妻のお腹に子どもがいまして、出産予定日が来年の5月26日なのです。東芝ブレイブルーパス東京の今シーズンが素晴らしい物語りとなるように、チームから求められることをやるのにとどまらず、期待されている以上のことを発揮できるように。必死のパッチでやっていきます」
東芝ブレイブルーパス東京の勝利のために。水間は1分も、1秒も、決して無駄にしない。その1分に、1秒に魂を込める。それがきっと、生まれてくる子どもの幸せにもつながる、と信じて。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【試合情報】
3/17(日)はホストゲームとして、秩父宮ラグビー場にて三菱重工相模原ダイナボアーズと対決します!
チームは開幕7連勝!この勢いのままにプレーオフに向け勝利を重ねていきます!
ぜひ皆様のご声援をよろしくお願いいたします。

3/17(日) vs 三菱重工相模原ダイナボアーズ(@秩父宮ラグビー場)

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