【物語りVol.52】CTB バーガー・オーデンダール

 数か月前は、景色から色が抜け落ちていた。
 2022年10月、所属していたイングランド・プレミアシップの名門ワスプスが、破産申請をしたのである。コーチングスタッフと所属選手が解雇され、バーガー・オーデンダールはそのなかのひとりだった。
「18年にトップリーグのクボタスピアーズでプレーして、19年に母国の南アフリカのブルズに戻り、そのあとゴールデンライオンズに所属していました。次は新しいチャレンジをしようと荷造りをして、イングランドに渡り、よしこれからだというときに……」
 風船がポンと割れてしまったかのようでした、とオーデンダールは振り返る。加入からわずか3か月ほどで、所属クラブを失ってしまったのである。様々な色に彩られていた景色が、突如としてモノクロームになった。強制的に、なって、しまった。
「仕事を失ったことでビザが失効になり、強制送還されるようなことになりました。新しい国で新しいチャレンジをするために覚悟を決めたにもかかわらず、仕事がなくなってしまったのです。現実というものを、なかなか受け入れられなかったですね。友だちや家族が近くにいなかったこともあって、本当にショックで悲しくて、落ち込んでいました」

 真新しい意欲を、粉々に砕かれた。
 だからといって、ずっと立ち止まっているわけにはいかない。
 オーデンダールはエージェントに連絡を取る。
「エージェントは呆れていたかもしれません。というのも、僕が一日に2回は、新しいオファーはないか、どこかプレーできるチームはないか、と聞いていたので……。このまま引退することになってしまうのか、という思いも過ったので、東芝ブレイブルーパス東京に決まったときは、『嬉しい』のひと言でした。18年のクボタのシーズンが個人的にすごく気に入っていたので、また日本でラグビーができることが嬉しかったのです」
 オーデンダールが力を発揮するセンターのポジションは、東芝ブレイブルーパス東京にとって補強が必要だった。
 同年11月末、オーデンダールの加入が発表されたのだった。
「日本人は親切で優しくて、日本は平和で安全です。日本でスターバックスへ行くと、席取りでスマホを置いたりすると思いますが、南アフリカで同じことをやったら1秒で取られます。婚約者には、朝の4時でも午後の4時でも、ここでは何をしても安全だよ、と伝えました」

 東芝ブレイブルーパス東京に合流したオーデンダールは、ラグビーができる喜びを再確認している。クラブハウスにやってきて、トレーニングウェアに着替え、グラウンドに立つ。ラグビー選手にとって当たり前のルーティンが、いまの彼には愛おしいのだ。
「ワスプスでのことがあって、とくに考えるようになったことがあります。それは、何事も当たり前と思わないということです。以前の私は、日々の練習や試合に全力を注いでいたものの、それを消化しているようなところがありました。いまは自分がチャンスをもらっていることに感謝とリスペクトの気持ちを抱いていて、その感謝を自分のプレーで伝えるようにしています」
 感謝やリスペクトの行き先はふたつある。
 ひとつは、東芝ブレイブルーパス東京だ。
「これまで色々なクラブでプレーしてきて、クラブに忠誠心を持つことができるタイプだと自己評価しています。東芝ブレイブルーパス東京というクラブがどこへ向かっているのかを学んでいて、それに対して共感を抱いています。選手たちも加入直後から気にかけてくれて、いつでも手助けしてくれています」
 もうひとつはファミリーである。血のつながった家族と、ラグビーをともにプレーしてきた仲間たちだ。
「私が海外でプレーするために、家族はたくさんの犠牲を払ってくれました。理解とサポートをしてくれました。とくに両親には感謝しています。東芝ブレイブルーパス東京の試合も、『J-SPORTS』でチェックしてくれています。それから、いままで一緒にプレーしたコーチ、チームメイトは、私のキャリア形成に大きな役割を果たしてくれています。その人たちがいたからこそ、いまの自分がいると思います」

 2022-23シーズンのリーグワンでは、2節のリコーブラックラムズ東京戦から試合に絡んでいる。スーパーラグビーで多くの経験を積んだ29歳は、スタートでもリザーブでも安定したパフォーマンスを発揮している。
「まずは東芝ブレイブルーパス東京を、もっといいチームにしたい。個人的には若い選手たちにアドバイスをして、彼らの成長の手助けができたらと思っています。将来性豊かな選手が、このチームにはいます」
 そう言ってオーデンダールは、ワーナー・ディアンズの名前をあげた。東芝ブレイブルーパス東京で成長速度を上げている特大のポテンシャルは、ライオンズでキャプテンを任された男にもまばゆい。
「いますぐ南アフリカへ行っても、彼ならすぐにプレーできるでしょう。20歳であのレベルはすごい。末恐ろしい。もうひとり、若手ではありませんが、トヨ(豊島翔平)は素晴らしい選手です。自分よりも年上(33歳)ですけれど、非常にレベルの高いパフォーマンスを見せている。若い選手のロールモデルとして、チームにいい影響を与えていると思います」
 雌伏の時を経て東芝ブレイブルーパス東京に逢着したオーデンダールは、自身のキャリアを捧げるとの決意を抱く。「それだけの価値があるチームです」と、力強くうなずいた。
「チームとしては優勝を目ざす。とにかくいい結果を残したい。試合でチームに貢献するためには、どんな犠牲でも払う覚悟です。試合でケガをしてしまったとしても、僕にとっては嬉しいことです。誇りです」

 欲しいものはただひとつ、チームの勝利のみ──。
 オーデンダールの信念は、決してくじけない。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)


【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「物語り」
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【チケット情報】
3月4日(土)はコベルコ神戸スティーラーズと対決!!
ぜひ秩父宮ラグビー場にお越しいただき、東芝ブレイブルーパス東京の応援をよろしくお願いします!
3/4(土)コベルコ神戸スティーラーズ戦(@秩父宮ラグビー場)

 

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