【物語りVol.53】宇薄 岳央 パフォーマンスコーチ

 2021年度シーズンから、宇薄岳央はパフォーマンスコーチを務めている。「まだまだ実力不足で、ホントに全然足りないので。選手に還元できていないんです」と、申し訳なさそうに言う。誠実な人柄が、さりげなく伝わってくる。
 2008年からトップリーグ最後のシーズンとなった2021年春まで、13年にわたって東芝ブレイブルーパス東京に魂を捧げた。決定力を持つフィニッシャーは、11年のW杯で日本代表に名を連ね、7人制日本代表でもプレーした。
「最後のシーズンは自分がチーム最年長だったのですが、チームがいい成績を残せなかった。自分のパフォーマンスもチームに貢献できるレベルではなくなっていると感じ、引退という決断に至りました」
 小学生からラグビーに親しみ、東海大仰星高校、同志社大学、そして東芝ブレイブルーパス東京と、高いレベルで戦ってきた。現役を退くとの決意後も、情熱は燃えたぎっていた。
「ラグビーが好きですし、もっとやりたい気持ちはもちろんありました。気持ちも折れていなかったですし。でもやっぱり、チームに貢献できないというのが大きかった。毎年、毎年が勝負という気持ちでやってきて、手を抜いたことは絶対になかったので、そこの部分としてはやり切った気持ちはあります。ただ……」
 チームへの熱い思いが、こみ上げている。
「自分は1年目に日本一になりまして、そこからは準優勝やベスト4が続きました。日本一になるには何かが足りなかったんですけど、ある年を境にベスト4からも外れてしまいました。自分の入団当初よりチームが順位を落としていることに対して、すごく責任を感じていました。いい状態で後輩たちにつなげてから現役を辞めたいと、年齢を重ねるごとに思っていたので、それはすごく申し訳ないというか……」

 パフォーマンスコーチを目ざすきっかけは、17年シーズンに見つけることができる。宇薄はチームの全試合にスタートで出場し、キャリア最多となる9トライを決めた。
「30歳を過ぎてパフォーマンスが落ちていくと言われていた時期で、僕は負けず嫌いなので年齢は関係ないという気持ちでトレーニングに一生懸命取り組んだら、スピードとかフィットネスが上がっていきました。正しいトレーニングをやれば、年齢は関係なくパフォーマンスが上がり、選手寿命を延ばせる。それが、僕的にはすごくありがたかった。選手がプレーできる時間は限られているので、少しでも選手寿命を伸ばす手助けができたら、と思ったのです」
 日々の練習から、熱量高く動いている。様々な場面が学びの機会だ。
「1年目は全体的なサポートが多かったのですが、2年目の今年はリターントゥプレーを、ケガ人を競技復帰させるところをやらせてもらっています。経験あるトレーナーの方にサポートしてもらっていますが、1年目より責任が増していますし、たくさんの学びがあります。ウォーミングアップは去年からやらせてもらっていて、普段の練習からケガ人を出さないことは大事なので、選手とのコミュニケーションで身体の状態をヒアリングして、メニューに反映するようにしています」

 所属選手のほとんどは、現役当時のチームメイトである。気さくに話のできる関係だ。
「一緒にやっていた選手もたくさんいるので、距離感は普通のコーチより近いと思います。それがいいときもあれば、プラスにならないこともあります。距離感が近いあまりに、真剣に受け止めてもらえない場面があったりもするので、そこは自分へベクトルを向けて、伝えかたを見直したり、知識の厚みを増やしたりするようにしています」
 選手が最高のパフォーマンスを発揮するために、宇薄は自らを客観視していく。たくさんの情報を集め、資料にあたり、自分なりの答えを探し出す。
「国内で一番高いレベルのリーグで戦っているわけですから、自分が学んだ100点のものを提供しなければなりません。一流選手の求める高いレベルに、自分を合わせないといけない。練習以外の場面でもそれを念頭に置いているので、もっと努力しないといけないなと、すごく思います」
 実直で一本気なタイプである。だからなのだろうか、少しばかり昭和が薫る。それがまた、人間的な魅力を引き立たせる。
「インプットは好きなんですが、アウトプットが苦手でして。家でもあまり喋らずに、奥さんの話をずっと聞いている感じなんです。そんな自分がコーチに向いているかと言ったらそうではないかもしれないですが、インプットしたことを選手に還元できるように、しっかりとアウトプットしていきたいと思っています」

 W杯という大舞台を知る。東芝ブレイブルーパス東京の後輩たちにも、同じ景色を、同じ空気を、同じ緊張感を味わってほしいのでは──そう聞かれた宇薄は、「自分が出場した11年当時は、ラグビーがメジャーではなかったし、結果もついてこなかった。いまとは注目度が違います」と、顔の前で右手を振る。謙遜の合図だ。それでも、言葉は滑らかにつながっていく。
「4年に一度のあの雰囲気は特別だったし、オールブラックスのようなチームと対戦できた。それは、自分の意識にすごく影響を与えてくれました。ああいう世界の舞台を、ひとりでも多くの選手に経験してほしい、というのは確かにありますね」
 コーチとしての見聞を広げるために、他のチームの練習などに触れてみたい、という気持ちはある。ただ、自分の仕事に情熱を注げるのは、東芝ブレイブルーパス東京しかない。
「やりたいことをやらせてもらっているので、この道を究めていってチームに貢献していきたい、という気持ちがあります。やはり優勝にこだわりたいですね。選手たちの思いも知っているし、彼らをサポートしたいというのはすごくあります」
 心の一番深いところに住み着いた思いが、宇薄の声に芯を通している。

(文中敬称略)
(ライター:戸塚啓)

 


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ぜひ秩父宮ラグビー場にお越しいただき、東芝ブレイブルーパス東京の応援をよろしくお願いします!
3/4(土)コベルコ神戸スティーラーズ戦(@秩父宮ラグビー場)

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