【道標 Vol.4】リチャード・カフイ

嬉しくなるようなことをさらりと言った。
「クラブのOBとして言いたい。優勝してくれてありがとう」
元オールブラックスとしての言葉ではなくて、ブレイブルーパスの空気を7年も吸い込んだ人の笑顔がそこにあった。
リチャード・カフイはリーグワンの2023-24シーズン、自分が愛したチームのことが気になって、日頃からその動向をSNSや映像などでチェックしていた。
2013年度から2019年度(トップリーグ2020)まで府中の街に住み、2017年度、2018年度はブレイブルーパスの主将を務めた。
ニュージーランド代表として17回テストマッチに出場した。激しいタックルと引き換えに怪我も絶えなかった。それがなければ、もっと多く、栄光のブラックジャージーを着ただろうと言われる。
2011年のワールドカップでは優勝の美酒も味わう。オールブラックスではCTB、WTBでプレーし、ラグビー王国の中でもタックルの強さで評価されていたのだから、指導者、仲間からの信頼は常に厚かった。

来日後もハードワーカーとしてチームメイトやファンに愛されたナイスガイは現在39歳。ブレイブルーパスを離れた後はスーパーラグビーのウェスタン・フォースで2022年シーズンまでプレーを続けた。
いまは家族でオーストラリアのゴールドコーストに暮らし、建設業に就いている。
ブレイブルーパスのOBとして、2023-24シーズンを遠くから楽しんだ。
「決勝戦はライブではチェックできませんでしたが、あとで中継を見ました。松永(拓朗)は日本代表にも選ばれましたね。若手の選手たちも多くいて、リッチー・モウンガやシャノン・フリゼルなど、外国人選手とのバランスも、とてもいいように感じました」
カフイ自身はブレイブルーパス在籍時、日本一は経験していない。もっとも惜しかったのは2015-16シーズン。トップリーグでファイナルに進出し、パナソニックワイルドナイツと戦った。
その試合は、ラストプレーだった逆転コンバージョンキックが外れて26-27と敗れた。
「最後は勝てなかったけど、日本代表がワールドカップで南アフリカに勝ったあとのリーグ戦だったので、お客さんが多いシーズンでした」
同年はリーグのベストフィフティーン(CTB)にも選出され、充実の1年だった。
在籍した7シーズンで63試合に出場できたのは、チームのカルチャーを気に入り、適応したからだ。
「日本でプレーする外国人選手たちは、言葉も文化も違うところに行くのだから、一大決心の末に挑戦しています。そんな僕らをブレイブルーパスの仲間たちは、ウェルカム精神で受け入れてくれた。みんなで行った菅平や鹿児島での合宿はきつかったけど本当に楽しかった」

最終的にはコロナ禍がきっかけとなり、日本を離れることになった。「それがなければ、優勝できるまで、ずっといたかった」と話す。日本語が上達すると、仲間たちとの関係はより深くなった。
キャプテンを務めたシーズンもよく覚えている。「最初は日本人選手がやった方がいいと思い」、少し揺れた。
しかし、やると決めたからにはできる限り日本語を話し、チームをまとめようと思った。
「それでも足りないところは、ヨシ(森田佳寿/現コーチングコーディネーター)や(CTBで)コンビを組んでいた増田(慶介)などリーダーグループの仲間が自然な形で助けてくれました」
やるとなったらとことんやる。
ブレイブルーパスの、そんなチームカラーが好きだった。
特色が曖昧なチームだったらどうだったか。カフイ自身、母国より長い練習時間も、トレーニング内容についても、「違いを楽しもう」と常に前向きだったから、ブレイブルーパスが明確なスタイルを持っていてよかった。
オールブラックスやスーパーラグビー(チーフス)で得た知見を惜しみなく仲間にシェアしていたことを覚えている人は多い。
「ブレイブルーパスには、全体練習を終えてからエキストラで練習をする若手が多くいました。そこに加わると、いろんなアドバイスを求められました」
練習も試合も、常に100パーセントで取り組むと決めて来日し、実行した。
「それがみんなを、ベストなところへ導くことに結びついたらいい。そう思っていました」

周囲から尊敬されるカフイだったが、自分も社員選手の態度とハードワークをリスペクトしていたという。
「社員の選手もプロ意識を持って練習している。きつい練習をしたあとに仕事に戻る人もいた。当然尊敬もするし、その中で自分がプロとしてプレーさせてもらっていることを名誉に感じた。外国出身のプロ選手たちはみんな、私と同じ気持ちでした」
想い出をあげればキリがない。
ロッカールームの匂いや光景。グラウンド近くの定食屋、ますだやの味と仲間たちとのお喋り。試合で出し切ったあとに食べる、ホルモンなかむらのビール、肉のおいしかったこと。
「日本に行ったら、また行きたいところばかり」
「府中のグラウンドで、社員の方々に応援の声をかけてもらうこともよくありました。街でも、私は東芝で働いていて……と声をかけてくださる方も。そのたびに、自分はこの人たちの代表なんだ、と誇りを感じていたなあ」
自分がプレーしていたブレイブルーパスが、久しぶりに日本一になったんだよ。
周囲の人たちにそう自慢する立場になって、「勝ち続けてほしいな」と思う。
いまになって、ファンの気持ちがよく分かる。
(文中敬称略)
(ライター:田村 一博)

第6節の三重ホンダヒート戦は、35-12で勝利いたしました!
次節は2/9(日)に、現在首位の埼玉ワイルドナイツと対戦します。
次のホストゲームは、第8節:2/15(土)14:05より、秩父宮ラグビー場にて東京サンゴリアスと対戦します。
14:05キックオフとなりますので、ぜひ会場で皆様の熱いご声援をよろしくお願いします!!
【連載企画】東芝ブレイブルーパス東京 「道標」
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