【物語りVol.8】充実のプレシーズンを経て

■ホストゲームにつながる試みが

 11月29日、東芝ブレイブルーパス東京は定例記者会見を開きました。8月から毎月開催しており、今回で4回目になります。
 最初に荒岡義和社長が、11月のプレシーズンマッチ3連戦を振り返りました。11月12日の日野レッドドルフィンズ戦、同19日のグリーンロケッツ東葛戦、26日の東京サンゴリアス戦を東芝府中グラウンドで開催し、様々な企画を用意してBRAVER(ブレイバー)のみなさんをお迎えしました。
「やって良かったです。成功でした。今回の3連戦は東芝府中の天然芝のグラウンドを17年ぶりに張り替えて、試合を観戦できる席も1,000人収容できる設計で増設しました。このグラウンドにお客様を迎えるのは、2020年の1月以来となります。かつ、今回は一部の席を有料にしました。これまでプレシーズンマッチはゲームを見ていただくのが中心だったのですが、今回は自主興行としてやりましたので、キッチンカーを入れたり、ファンクラブのブースを設営したり、グッズ販売をしたりと、まさしく興行をやってみました。多くの方々に楽しんでいただけたかな、と思っています」
 3試合の総入場数は、2,500人にのぼりました。
「有料席は毎試合すぐに完売しました。途中でもうちょっとスペースを作れるかなということで、2試合目と3試合目は30席追加して180席を販売しましたが、それもすぐに完売しました」
 チームグッズの販売も好調でした。
「チームスピリットの猛勇狼士のTシャツやタオルは、3日間で売れるだろうと思っていた量が1日で売れるような状況でした。反省点はありますが、それは分かったうえでやっていますので、きちっとレビューをして12月から始まるリーグワンのホストゲームに生かしていきます。非常にいい場になりました」
 3試合のうち最初の2試合は、同日にルーパスカップが行なわれました。参加した子どもたちには、プレシーズンマッチを生で観戦してもらいました。
 プレシーズンマッチでの様々な試みは、リーグワンのホストゲームを充実させることにつながっていくのでしょう。

■チーム歌でBRAVER(ブレイバー)とのつながり深める

 荒岡社長からは、もうひとつ報告がありました。「チーム歌」の制作が発表されたのです。その制作意図には、クラブのスタンスがはっきりと表れています。
「ファンのみなさんを『BRAVER(ブレイバー)』と呼んで、みんな家族というマインドでやっていこうとしていて、どうやったら選手とクラブとBRAVER(ブレイバー)が、さらに将来のBRAVER(ブレイバー)も含めて心から時間を共有できるのか。いいやりかたがないかと議論をしてきました」
 クラブ内で話し合いを進めていくなかで、アイルランド代表が試合前に歌う『アイルランズ・コール』に着目しました。
「これが非常に感動的で、応援してくれる人たちと一緒に戦う気持ちを共有している。みんなで歌える歌、チームを応援できる歌、みんなで喜びを分かち合える歌、子どもからお年寄りまで長く受け継がれるものを作りたいということで、どういう言葉を使うのかも話し合い、色々な意見を出し合って歌を作りました」
 作詞は「猛勇狼士です」と荒岡社長は言います。選手とクラブスタッフが意見を出し合い、思いを「詞」に込めました。「みんなで考えましたので、作詞家をあえて言うなら猛勇狼士なのです」と、荒岡社長は笑顔で話しました。
 作曲はテレビドラマ、映画、舞台などに楽曲を提供し、日本アカデミー賞の優秀音楽賞を何度も受賞している荻野清子さんが担当しています。「応援歌なので何回も聞くとクセになる。12月にホームページで発表する準備をしています」(荒岡社長)とのことです。

■「ここ最近で一番しんどい練習をしている」

 続いて、薫田真広GMがふたつの視点からプレシーズンマッチを振り返りました。
ひとつ目は興業の側面からです。トップリーグからリーグワンへの移行に伴って事業化を推進しているなかで、薫田GMは選手たちの意識改革を進めてきました。
「今回のプレシーズンマッチのイベントなどを通して、選手たちがいままでのようにラグビーをプレーするだけでなく、事業貢献を体現してくれたのは非常に良かったと思っています。選手がラグビーのプレー以外にどう関わっていくかのステップを踏めたことが、チームとしての財産になりました」
 ふたつ目は、チームのパフォーマンスに対する評価です。
「先週のサントリー戦は敗戦しました。ただ、チームとしてやりたいこと、つまり猛勇狼士をしっかり体現する。そのために『猛』のところと接点にこだわる練習を、ずっとやってきました。選手と1対1でミーティングをしていますが、とくにベテランはここ最近で一番しんどい練習をしている、その反面コンディションは非常にいいです、と。ただし、サントリー戦で結果が出なかったのは一番の反省点です」
 プレシーズンでは「人を伸ばす」というチームの文化のなかで、若手選手が逞しさを増しています。薫田GMは1年目の木村星南、原田衛、タウファ・ラトゥの名前をあげ、彼らフレッシュなFW陣の成長が「タフなシーズンを過ごすうえでチームにとってプラスになる」と語ります。同時に、「バックスのなかでは松永拓朗、森勇登、眞野泰地が、相手チームとしっかり対応しながら、スピードとテンポで自分たちの存在感を示してくれている」と評価しました。
 また、児玉樹氏が家庭の事情で勇退したことを受け、新加入選手を補強したことが発表されました。18、19年にクボタでプレーしたバーガー・オーデンダール選手が加入します。南アフリカ出身の29歳は、12番と13番の選手として戦力に厚みを持たせることが期待されます。

■「ルーパスカップの参加者は全員が笑顔に」

 ここで登壇者が交代し、11月12日、19日、27日に行なわれたルーパスカップに関する報告がありました。実施に当たって先頭に立った望月雄太強化部採用担当が説明します。
「ルーパスカップでは独自ルールを設定しました。初めての経験なので、どこまでうまくいくのかドキドキするところもありましたが、正直、大成功でした。参加してくれた子どもたち、親御さん、コーチのみなさんが、全員笑顔で帰ってくれたのがものすごく印象的でした」
 ルーパスカップには6つの独自ルールが設けられていますが、望月強化部採用担当がとくに好評だったと感じたのは「対戦した相手とチームを組みミックス戦を行なう」というものでした。
「子どもたちはもちろん、コーチのみなさんがすごく成長したなと実は思っています。コーチのみなさんは初めて扱う選手もいるので、すごく丁寧にやっていただきました。ミックス戦は親御さんのほうが興奮しているようで、『ウチの子どもはあんなことができるのか』といった発見もあったようです」
 参加した子どもたちからは、2度目の開催を望む声が聞かれました。望月氏は「12月、1月にまたやりたいと思っています。我々がラグビーをプレーするきっかけを作り、ラグビーを楽しいと思っている子どもたちをサポートできたらと思っています」と、嬉しそうに話しました。

■ホストゲームで12,000人の集客を目ざす

 12月17日開幕のリーグワンへ向けて、新たなプロジェクトも動き出しています。24日のホーム開幕戦と来年1月7日のホストゲームで、12,000人の集客を目ざすのです。こちらのプロジェクトも、望月強化部採用担当が先頭に立ちます。
「昨シーズンのトップリーグ全チームの試合の最高入場者数は、12,000人に届いていません。我々の平均は4,000人ほどです。非常に苦しい道のりですが、来ていただいた方に色々なものを感じていただける、そしてもう一度来たいと思っていただける仕掛けを作り、色々な方に認知をしてもらう。東芝ブレイブルーパス東京はここで試合をしている、観に行こう、となるようにしていきたいです」
 なぜ12,000人なのか。野心的なチャレンジの真意は、星野明宏プロデューサーが明かします。
「ラグビー界は10,000人の壁を、勝手に作っている気がします。10,000人集めるのが大変となっているのをぶち壊したい。できるかどうかは分かりません。いまやっているブランディングも、それが結果に結びつくのかは分かりません。とにかくチャレンジしていく」
 9月の定例記者会見で触れられた「アジアプロジェクト構想」も、確実に前進しています。『アジアラグビーインターナショナルオンラインサミット』と題して、日本時間の12月7日にマレーシア、タイ、韓国、ブルネイ、日本(札幌山の手高校、桐蔭学園高校、東海大大阪仰星高校、東福岡高校)の高校生が、「アジアラグビーのこれからを考える」ディスカッションをすることになりました。プロジェクトを推進しているリーチ選手も参加し、ファシリテーターとして議論に関わっていきます。
「日本とアジアの高校生をつないで、お互いの環境を知ってもらうことが大事だと思って企画しました。今後は大学、社会人、指導者のカテゴリーでもやっていきたいと考えています」
 リーチ選手はオンラインだけではなく対面での交流にも積極的で、「アジアから選手や指導者を招きたい」と話します。現在も韓国から選手と指導者が来日しており、プログラム化を模索しているとのことです。アジアプロジェクト構想のこれからに注目です。

■「3人でしっかりリードして、ブレイブルーパスが優勝できる環境を作っていく」

 定例記者会見の最後には、ジャパン活動を終えたリーチマイケル選手、中尾隼太選手、ワーナー・ディアンズ選手が取材に応じました。リーチ選手に促され、中尾選手が最初にマイクを手にします。
「代表活動から戻ってきて、昨日(28日)、今日(29日)と練習に参加しました。東芝は大好きなチームですし、去年成し得なかったリーグワン優勝ができるように、代表から自分自身が持ち帰ったものを含めて、勝利に貢献できるように頑張っていけたらという気持ちです」
 続いて、ディアンズ選手が話します。短い言葉に決意を込めました。
「代表戦で色々学んだことを、ブレイブルーパスの試合で出せるように頑張っていきたいと思います」
 最後はリーチ選手です。ふたりの成長に触れ、リーグワンへの意気込みも口にしました。
「ブレイブル―パスから久々に3人、バックスの選手と若い選手が代表で戦って、素晴らしい経験ができました。ワーナーは試合にたくさん出て、まだ20歳なのに世界のトップ選手と身体をぶつけ合った。隼太もフランス戦に出て、オーストラリアA戦にも出て、たくさんいい刺激をもらっていると思います。僕個人も調子は上がってきている。3人でしっかりリードして、クラブが優勝できるような環境を作っていきたいです」

 世界有数のユニークなラグビークラブを目ざして、東芝ブレイブルーパス東京はプレシーズンから様々な試みに取り組んできました。チームはトッド・ブラックアダー監督のもとで厳しいトレーニングを積み重ね、開幕を迎えようとしています。
 誰もが胸を躍らせる冒険が、もうすぐ、幕を開けます。


(ライター:戸塚啓)

※それぞれの項目の詳細につきましては、HP上に随時アップされる情報をぜひご確認ください。


■東芝ブレイブルーパス東京【物語り】
東芝ブレイブルーパス東京では、ファンの皆さまにクラブのことをより知っていただくために、今シーズンからライターの戸塚啓さんにご協力いただき、様々な物語を発信しています。
【物語りVol.1】 チームスピリット「猛勇狼士」に込めた想い
【物語りVol.2】荒岡義和 「ただただ、悔しかった」
【物語りVol.3】それぞれの立場でハードワークを
【物語りVol.4】 ワーナー・ディアンズ「準備してきたものをやるだけ」
【物語りVol.5】 リーチ マイケル「勝つことばかり考えています」
【物語りVol.6】湯原祐希 FWコーチ
【物語りVol.7】「世界有数のユニーク」さが具体的に

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